パーパスを現場の行動へ―イオン九州「変革と挑戦」育成プログラムの実践知
現場と連動した変革人材の発掘と育成設計
「異動案を審議して終わるだけの人材発掘では、組織は変わらない」
そうした課題認識から、イオン九州株式会社では次世代リーダーの発掘と育成の在り方を抜本的に見直しました。
本セッションでは、ProfileXT®(PXT)とCheckPoint 360°™(CP360)を起点に、個人の特性理解と行動変容を接続し、組織変革へとつなげた「変革と挑戦」育成プログラムの実践が紹介されました。
登壇者のご紹介

金子 亮輔 氏 Kaneko Ryosuke
イオン九州株式会社 執行役員
人事総務本部長 兼 健康経営推進責任者 兼 サステナブル推進責任者
株式会社ホームワイド、イオン九州において、店長・人事教育部長・経営企画部長などを歴任し、現在は、HR領域・総務・サステナブルの責任者を務める。HR領域については「戦略遂行に不可欠な人的資本の確保」を軸に新たなHRアプローチの可能性を日々模索中。

吉竹 知恵美 氏 Yoshitake Chiemi
イオン九州株式会社
人事総務本部 人材育成部 部長
イオン九州入社後、店舗勤務、海外派遣、バックオフィス業務などを経験。現在は人材育成部にて、現場と会社の成長を人材面から着実に前進させるべく、次世代人材獲得・育成、挑戦する風土醸成、多様な人材の活躍推進を担っている。

𠮷岡 志希 Yoshioka Shiki/モデレーター
HRD株式会社 プロファイルズ事業部
パフォーマンスコンサルタント
組織・人材開発コンサルタントとして、経営・人事部門および現場マネジメントの支援に従事。研修登壇や認定セミナーの講師も務め、「一人ひとりの可能性を引き出す」というHRDの理念を、実践的なプログラム設計と対話を通じて体現している。
また、事業部を横断してアセスメントやサーベイを活用し、経営戦略の実現、企業文化の強化、リーダー育成など、多面的な組織課題の解決に取り組んでいる。
特性理解が変える、関係性と対話の質
冒頭、HRDの𠮷岡は「PXTとCP360を活用し、次世代リーダー層の発掘と育成をどのように進めているのか、実践知をうかがっていきたいと思います」と述べ、狙いを提示しました。
本セッションでは、発掘と育成を分断しない設計にどのように取り組んだのかが焦点となりました。
その具体的なイメージとして、登壇者自身の特性が紹介されました。社交性の指標について、金子氏は「私はスコアが4で、外からは社交的に見られることもありますが、実際はそうでもない。内面をよく捉えていると感じました」と語ります。一方、吉竹氏は「私は10だったのですが、金子が4だとは思っていませんでした」と驚きを示しつつ、「“社交性4なのにこんなに頑張っているんだ”と感じて親近感が湧き、関係性が変わりました」と述べました。
また、判断の客観性についても対照的な結果が示されました。金子氏は「私は8で、ファクトベースで判断していくのが好きなので、自分らしい結果でした」と語り、吉竹氏は「曖昧な状態で金子に相談すると“ファクトあるの?”とよく言われるのですが、まさにその通りだと感じました」と振り返ります。こうした特性理解について金子氏は「お互いの思考の癖が早く理解できるので、関係構築に非常に有効だと思います」と述べました。
こうした特性理解は、個人の関係性にとどまらず、組織全体の人材マネジメントの前提にも影響を与えます。

発掘で終わらせない、人材育成への再設計
続いて金子氏は、同社の人材戦略について説明しました。「我々は九州に根差した事業会社として、“九州をもっと良くしていく”ことをパーパスに掲げています」と述べ、「人的資本経営の推進が重要なテーマ」と位置づけます。人事部門は「人的資本の調達部門」と定義され、「適所に適材を充てる」「一人ひとりを生かす全員戦力化」「従業員の心の変化に寄り添う」という価値観を軸に人材マネジメントを設計しています。約3万人規模の中で、「人材をどう見極め、どう活かすか」が大きな課題でした。
こうした背景のもと、同社では人材発掘委員会を軸に、幹部候補からミドル層、ジュニア層までの人材発掘・育成を進めてきました。しかし金子氏は、「これまでの委員会は“異動案を審議して終わり”になっていた」と課題を指摘します。
「表面的・主観的な議論にとどまり、深掘りができていませんでした。結果として実効性のある配置や育成につながっていなかったのです」
この課題意識から、同社はプログラムの全面的な再設計に着手しました。「着任してすぐに“このやり方はまずい”と感じ、スケジュールを組み直してゼロから設計し直しました」と金子氏は振り返ります。


アセスメント起点の個別育成プロセス
その中で導入されたのが、PXTとCP360を起点とした育成プログラムです。対象は事業部長・執行役員候補6名と、ミドル層14名の計20名で、「まずアセスメントとサーベイで現在地を可視化し、そこから個別に成長を設計する」プロセスが構築されました。
吉竹氏は導入の狙いについて、「審議の蓋然性を高めることがミッションでした」と語ります。その上で従来の研修に対して、「全員に同じ研修を受けさせても、スタートラインが違う中で意味があるのか疑問でした」と課題を提示します。
「それぞれの現在地からどこに行きたいのかを定め、差分を埋めるために“自分で取りに行く”学びに変える必要があると考えました」と同氏は続けます。

こうした考えのもと、複数のベンダーからの提案を比較した結果、HRDが選定されました。吉竹氏はその理由について、「アセスメントの精度だけでなく、課題に寄り添って一緒に設計してくれた点が決め手でした」と述べ、「信頼して任せられると感じたことが大きかった」と語ります。
プログラムは、アセスメントとサーベイによる現状把握、フィードバックの実施、行動計画策定、現場実践という流れで設計されました。特に重要なポイントは、「CP360の行動結果をPXTの特性で読み解く」点です。𠮷岡は「なぜその行動が出ているのかを特性から理解することで、行動変容の方向性が明確になります」と説明しました。

現場実践では、上司との面談やコーチングを通じて行動変容を促進しました。「日常業務の中でどう活かすかが最も重要でした」と振り返ります。
導入後の成果について、金子氏は「人材発掘委員会の議論の質が大きく変わりました」と述べます。
「表面的な情報だけでなく、内面的な理解を踏まえた議論ができるようになりました。半数以上を人事異動に反映する見込みで、非常に価値のある取り組みだったと感じています」
個人への影響についても、「強みや弱みが明確になり、学び直しや行動変容につながった」と評価します。
個人の変化が、組織全体へと波及する
吉竹氏は現場での変化について、より具体的に語ります。「ベテランで完成していると思っていた部下が、アセスメント結果を見て“自分ってこうだったんだ”と無邪気に驚き素直に受け止め、そして“こんなに期待されているんだ”と捉え直したことで、そこから大きく変わりました」と述べ、「100時間以上学習するなど、主体的な成長が見られました」と紹介しました。
さらに、「その変化が周囲にも波及しました」とし、「マネジャーが変わることで、チームのメンバーも変わり始めました。資格取得に挑戦するメンバーが出たり、これまで対外的な活動を避けていたメンバーが自らイベントへの参加を申し出るなど、チーム全体に挑戦の空気が広がりました」と語ります。
𠮷岡はこれらの変化を、「意識の変容」「試行・挑戦」「周囲への波及」という三段階で整理し、「まずは自己理解を通じて意識が変わり、次に行動が変わる。そしてその変化が周囲に広がり、組織全体の変革へとつながっていきます。個人の変化が組織の変革へと連鎖するこのプロセスこそが、アセスメントとコーチングを組み合わせたアプローチの核心です」と説明しました。


最後に金子氏は今後の展望について、「企業の成長は“人”にかかっています」と強調し、「人的資本をさらに強化し、九州の発展に貢献していきたい」と語りました。
本セッションは、アセスメントを起点に個人の内面理解と行動変容を接続し、それを組織変革へとつなげる実践例として位置づけられます。個人の特性と行動を統合的に捉え、意思決定や育成に活かしていくアプローチは、人的資本経営を推進するうえで重要な示唆を提供するものといえます。

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SESSION02:組織はこう変わる―Everything DiSC® カタリスト先行導入企業の実践知
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SESSION06:戦略人事のこれまでとこれから
SESSION07:我が国の未来を見据えた、新たな組織・人材戦略の方向性
2026年05月01日
