我が国の未来を見据えた、新たな組織・人材戦略の方向性
――前内閣官房参与・川上高司氏 登壇レポート
2026年1月30日、HRD NeXT 2026の最終セッションに、前内閣官房参与・日本外交政策学会理事長の川上高司氏が登壇しました。
テーマは「我が国の未来を見据えた、新たな組織・人材戦略の方向性」。
しかし当日語られたのは、制度や人材論にとどまる内容ではありませんでした。
報道では見えない各国の動き、同時進行する複数の緊急事態、そして国家レベルの意思決定の前提そのものが揺らいでいるという現実。
国家間の地政学的変化が、企業の意思決定とも無関係ではないことが示されました。
登壇者のご紹介

川上 高司 氏 Kawakami Takashi
前内閣官房参与 / 日本外交政策学会理事長
一般社団法人 日本外交政策学会理事長、一般社団法人 中央政策研究所所長、一般社団法人 日本経済安全保障研究所理事長等を兼務、石破茂政権にて内閣官房参与。
1955年、熊本生。
大阪大学国際公共政策博士、ジョージタウン大学留学、米フレッチャースクール研究所研究員、ランド研究所客員研究員を経て、中曽根世界平和研究所研究員、 中央政策研究所所長、海部俊樹元総理の政策秘書、防衛省防衛研究所主任研究員、北陸大学教授から拓殖大学海外事情研究所所長を経て現職。
その間、外務省の国際問題研究所客員研究員、神奈川県庁参与、参議院外交防衛委員会客員調査員、TBS News Bird特別キャスターを兼務。

韮原 祐介 Nirahara Yusuke
HRD株式会社 代表取締役
1983年、千葉県生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、アクセンチュアに新卒で入社。戦略策定、組織・人事改革、システム改革などに従事する。2012年~14年にかけてシンガポールに駐在し、ASEAN地域における日本企業の海外進出支援、組織・人事改革などを手掛けた。2015年ブレインパッドの経営企画部長に就任し、中期経営計画の立案と実行を主導するかたわら、同社過去最大の大型案件を責任者として実行。同社の経常利益12倍、時価総額20倍超の達成に貢献。専門領域は、組織・人事改革、機械学習などのデータサイエンスやデジタルテクノロジーの活用による経営改善、サイバー防衛戦略。東京大学非常勤講師、東進デジタルユニバーシティ講師などを歴任。一般社団法人情報処理学会情報規格調査会SC7/WG29小委員会アジャイルとDevOps(デブオプス)委員。2022年から現職。著書に『サイバー攻撃への抗体獲得法』『いちばんやさしい機械学習プロジェクトの教本』がある。
忍者外交、という仕事
川上氏は「忍者外交」をしていた、と石破内閣に携わった1年間を振り返りました。
中曽根世界平和研究所に初代研究員として10年間在籍し、キッシンジャー元国務長官やゴルバチョフ大統領の担当を務めた川上氏は、各国首脳間のバックチャネルの役割を担ってきました。石破政権で内閣官房参与に就いてからも、報道に見えないところで、各国首脳関係者との事前協議を行うなど、いわゆる「忍者外交」に従事されていました。
関税交渉を担当した赤澤大臣には週1回のペースでブリーフィングを実施。トランプ陣営の初期から資金と影響力を持つピーター・ティール氏(米パランティア・テクノロジーズ社共同創業者兼会長)の動向や実際に政策の草稿を書いているとされるスティーブン・ミラー大統領次席補佐官の存在など、表の外交ルートでは届かない情報を川上氏のネットワークが届けていました。
これらはあくまで、内閣官房参与の実務の一端です。

世界は、報道よりずっと動いている
川上氏がこのセッションで語ったのは、ニュースにはならない世界の動きです。
トランプ政権を支えてきたMAGAが、エプスタイン問題を機に3分の1ずつ分裂しているという話。国内が不安定になるほど、外に向けて危機を作りに行く——ベネズエラ、グリーンランド、イラン、その次の動きなどを赤裸々に語りました。
「どんどんどんどん戦争が広がっているんですね。トランプとしては危機を外に向けられるし、それを抑えれば、うまいこといくとノーベル平和賞も狙えるという計算があるのでしょう」
台湾有事が起きるとき、それは沖縄でのサイバー攻撃・認知戦・グレーゾーン事態と同時進行で起きる可能性がある、と川上氏は言います。
「目に見えない、すでに戦争が始まっているような状況だというのが現状だと思います」
ポリミリゲームで明らかになった不都合な現実
川上氏は日本外交政策学会で、現役国会議員・自衛隊OB・元国連幹部や元大使らを集めた政策・軍事シミュレーション「ポリティカル・ミリタリー・ゲーム(ポリミリゲーム)」を実施してきています。これはアメリカ・中国・台湾・日本などの各国のチームに分かれ、有事のシナリオに対してそれぞれの立場で意思決定を行う演習ですが、結果は毎回、同じことを示します。
「日本として戦略的に打てる弾の幅っていうのがものすごい狭いですね」
現役議員が首相役を務め、沖縄への攻撃・電力停止・独立運動の同時発生というシナリオに対して、何もできないまま時間が過ぎていく。一日の演習を終えた議員が頭を抱えて帰っていく光景を、毎回参加してきた韮原も何度も目撃してきたと語ります。
この演習は今、企業版にも広がっています。社長がトランプ役を、幹部が各国の首脳を演じながら、自社にどのような危機が発生しうるか、シナリオプランニングに役立てる。「生き残りをかけた戦いが始まっている」という川上氏の言葉は、決して脅しではなく、演習の結果から導かれた確かな現実を示しています。
しかし日本には、そうした国家レベルの軍事・外交的緊張関係から企業がいかにリスクをヘッジすべきか分析し、変化への備えを推進する役割を担える人材がほとんどいない、というのが現状です。これもまた、企業が今すぐ向き合うべき課題となっています。


国家と企業に共通する「意思決定の構造」
「企業内の意思決定体制を伺って、本当に政府の組織とよく似ているなという印象を持っていました」
川上氏はセッションの中でこうも述べています。
現場で把握された情報が、そのまま意思決定層に届くとは限りません。組織の中で情報は止まり、歪み、判断が遅れることがあります。この「構造」は国家にも企業にも共通していると川上氏は指摘します。
ウクライナ情勢、中東の緊張、米国の政策転換。ニュースとしては日々触れていても、それが自社の意思決定にどう影響するかまで落とし込めている組織は多くありません。どの情報をどう捉え、どのタイミングで判断するか。その前提自体が揺らいでいる今、外部環境を読み解く力は、経営に関わるすべての人にとって不可欠になりつつあります。
こうした問いは、HRDがここ数年向き合ってきた視点とも重なります。外部環境の変化はもはや一部の専門領域にとどまらず、台湾情勢やインフレ、金利の変動といった要素が、日々の経営判断に直接影響を及ぼしています。
外部環境を経営判断に直結させるには、社長直下で情報を収集・分析し取捨選択できる人材が必要です。しかし日本にはそうした役割を担える人材が極めて少ない——これもまた、川上氏が指摘した現実のひとつです。
予定時間を超えた、熱量ある50分
当日の質疑応答は、予定時間を大きく超えて続きました。衆議院解散のタイミング、トランプ後のシナリオ、北方領土とロシアの動向——参加者から次々と手が挙がり、川上氏はその一つひとつに具体的な見解を述べました。
報道では読めない文脈、通常の講演では聞けない踏み込んだ話に会場の熱量は、セッション終了後も続きました。



この続きを、直接聞きたい方へ
自社の意思決定はこうした環境変化を前提に設計されているのか。この問いに、HRDは正面から向き合います。
現在、HRDでは川上高司氏の公開講座を企画中です。セッションの内容についてのご質問、公開講座のご案内をご希望の方は、以下よりお問い合わせください。

【HRD NeXT 2026各セッションレポート】 ※順次公開中
SESSION01:初公開!Everything DiSC® カタリストの全貌
SESSION02:組織はこう変わる―Everything DiSC® カタリスト先行導入企業の実践知
SESSION03:ProfileXT®とCheckPoint 360°™が拓く次の人材戦略
SESSION04:パーパスを現場の行動へ―イオン九州「変革と挑戦」育成プログラムの実践知
SESSION05:経営戦略と人事を一本でつなぐ―エーザイの360°×DiSC® 実装ストーリー
SESSION06:戦略人事のこれまでとこれから
SESSION07:我が国の未来を見据えた、新たな組織・人材戦略の方向性
2026年04月16日
