個性がつながる新しいチームのかたち――フリースタイルスキー日本代表のカタリスト先行体験会レポート【後編】

最初から読む：世界を目指すチームが直面していた“見えづらい課題”

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若い選手たちの変化──言葉にならなかったものが、見えてきた

今回の体験会には、10代の選手を中心とした若い世代も多く参加しました。自分の考えや感情を表現する機会がまだ多くない世代の選手たちにとって、自分の考えや感情を表現すること自体が大きなチャレンジでもあります。そんな彼らが、スタイルを軸にした対話の中で、少しずつ「自分」や「他者」についての理解を深めていく様子が印象的でした。

Cスタイルの菅原希昴選手は、自分の新たな一面を知ったと驚きを語っています。

「自分では、スキーに関しても日常生活に関しても、そんなに論理的に考えるタイプじゃないと思ってたんです。でもCスタイルって出て、『あれ、自分ってそうなのかな？』って。新しく自分を知れた感じがして、面白かったです」（菅原選手）

CDスタイルの伊藤瑠耶選手は自身のレポートに深く納得しつつ、他者との違いを体感したことで自身の姿勢に変化が生まれ、さらに、コーチ陣とより良い関係を築こうとする姿勢も見え、このように話してくれました。

「自分の中の“当たり前”と、他の人の“当たり前”は違う。そういう価値観の違いがあるってことを見られたのも良かったです。大会のときなど、自分が何を必要としているのかをコーチにうまく伝えられるようになりたい」（伊藤選手）

選手たちはまた、他者の感じ方や受け取り方に耳を傾けることで、「自分がされて嬉しいこと＝相手が嬉しいこととは限らない」という気づきを得て、そしてそれが悪いことではなく、「違いをただ違いとして受け止める」ことへの深い理解が生まれていました。

若い選手たちにとって、「自分とは違う誰かを理解する」「違いを受け入れる」という体験は、競技の場面だけでなく、将来的に社会へ出ていくうえでも大切な学びとなります。Dスタイルの藤井源選手や、CSスタイルの桐山菜々穂選手も、こうした内省のきっかけを得たようです。

「いろんな人とディスカッションしていく中で、『あ、確かに論理的かも』っていう気づきがありました。自分って、“こうだ”と思ったらけっこう頑固なところがあるんですけど、これからはもうちょっと柔らかく、いろんな人の意見も聞きながら、柔軟にやっていきたいです」（藤井選手）

「合宿や大会のときはみんなで生活したり行動したりするので、それぞれの違いを理解して、尊重し合って競技ができたらいいな」（桐山選手）

今回の先行体験会では、自分や他者の“スタイル”に名前がついたことで、「言葉にできなかったもの」が見えるようになったと多くの選手が感じていました。その実感は、これからの成長を支える大きな糧となっていくはずです。

カタリストの“日常活用”へ　一度の研修で終わらない継続性

カタリストの最大の特徴は、研修当日だけで終わらない“継続性”にあります。参加者は一人ひとりが専用アカウントを持ち、自分のスマートフォンからカタリストにログインして、対話や振り返りに活用することができます。

実際のワークショップでは、ペアやグループで組んだ相手とスマートフォン画面を見ながら、お互いのスタイルの違いや傾向を確認し合いました。カタリストの「比較」機能や「DiSC®グループマップ」などの画面を活用しながら、「自分がどんな人間か」「相手がどう受け取りやすいか」「チームにはどんな考えを持つ人たちがいるのか」について活発な対話が行われ、相互理解が自然と深まりました。

このようなスタイル情報の“共有できる化”は、従来の紙レポートにはない大きな利点であり、参加者が自分と相手のスタイルをいつでも確認できる環境は、チームにとって継続的な成長を支える土台となります。

桐山選手は、今回の体験を経てこう語っています。

「コーチやスタッフのスタイルを知ることで、お互いにもっと尊重し合える関係が作れるんじゃないかなって思いました」

また、藤井選手もこのように話してくれました。

「大会の時とかに、今回の資料を見返したりして、自分を客観的に見られるようになっていけたらいいなと思いました」

日常の中で、“あの人はどんなスタイルだったかな？”とカタリストを開いて確認し、声かけや関わり方のヒントにする。あるいは、遠征中のミーティングや、チームの意思決定の場で、お互いの特性を共有し合う。このように、カタリストは一度きりの研修で完結するものではなく、日常のコミュニケーションに根ざした“共通の土台”として、継続的に活用することができます。

実施後のアンケートでも、カタリストに対して参加者の9割以上が満足と回答しており、「練習中の声掛けやコミュニケーション」や「チーム内での相談・報連相」に役立ていきたいとの結果が得られています。また、「緊張した場面で、カタリストを見返してからコミュニケーションをとりたい」といった声も挙がっていました。

練習中の声かけ、チーム内の相談、試合前のやりとり、そして遠征中の些細なひと言に至るまで──小さな“選択”の積み重ねが、チームの空気をつくっていきます。

カタリストがもたらす一連の体験が、それぞれのスタイルを思い出す“きっかけ”となり、他者への配慮や自分自身の調整に役立つ。今回の体験会で、その“選択肢”を手に入れたこと──それ自体が、チームにとって大きな前進となりました。

導入を検討する他チームへの示唆

今回のカタリスト体験会は、特別な条件が整っていたわけではありません。個人競技でありながら「チーム」として活動し、10代の若手選手とコーチ陣の間には世代の隔たりもある──そんな構造的な難しさを抱えたフリースキーチームにおいて、カタリストは誰にとっても有効であることが示されました。

実際に、コーチ陣からは他チームへの導入に前向きな声が寄せられています。

──津田健太朗ヘッドコーチ

SAJ（全日本スキー連盟）でもコーチカンファレンスを開催し、日頃の悩みや課題を共有する場がありますが、「結局、一番の悩みは“コミュニケーション”」なんです。
このカタリストを通して、考え方の癖やスタイルを知ることができれば、円滑なコミュニケーションへの“ヒント”が見つかるはずです。多くのコーチたちに、「こういうものがあるよ」と紹介していきたいと思っています。

──北澤裕次郎トレーナー

悩んでいる方だけでなく、逆に“これが正解だ”と決めつけて行動してしまうようなコーチにも、こうした研修を通じて解釈の幅を広げてもらえると良いなと思います。指導や育成において、非常に有用だと感じました。

──藤田斎文コーチ

世の中には「悩んでいる指導者」もいれば、「悩んでいることに気づかないまま強引に指導しているコーチ」もいると思います。そういう方たちにも、このような研修を受けていただくことで、解釈の幅が広がり、選手育成のアプローチが柔らかくなるのではないかと。
多様な視点を取り入れることは、どの競技にも共通して大切なことだと感じています。

──米谷優コーチ

今回特によかったのは、自分だけでなく、他の人のスタイルも見られたことです。
競技の世界って、比較的同じような人たちと長く付き合うことが多いんですが、いずれは違うコミュニティ、違う価値観やスタイルを持った人たちと関わる場面が増えていきます。そのときに、自分のスタイルを理解したうえで、相手との違いを認めてどう協調していくか。今回の体験はその大きな“きっかけ”になったと思います。

カタリストは一度の研修で完結せず、日常の中で気軽に“再確認”できることが強みです。HRDでは今後も、パートナーやお客様に広くご利用いただけるよう、積極的な情報発信をしてまいります。

また、フリースキーチームとの協業については、今回の体験会にて撮影した「選手篇」「コーチ篇」のインタビュー動画を、後日公開予定です。また、来年以降には、カタリスト導入後の変化や手ごたえについても改めて取材・発信していく予定です。今後の取り組みについてもどうぞご期待ください。

HRDでは世界を舞台に挑戦を続けるフリースキーチームの皆さまのさらなる飛躍を、心より応援しています。

2025年12月15日