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 離職率ゼロを実現した組織変革
──「心のアルバム」を見せ合える信頼関係とは

株式会社みらい福祉会
代表取締役 中臺 貴博 氏

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長野県南部を拠点に、児童から成人まで幅広い福祉サービスを展開する、株式会社みらい福祉会様。地域に根ざした支援を続ける一方で、かつては職員の定着率や業績に課題を抱えていました。そんな中、代表の中臺貴博社長は、DiSC®との出会いをきっかけに「経営者としての自己認識」に大きな転換を迎えます。今回は、経営者自身の変化から組織全体へと波及していったそのプロセスを、中臺社長にDiSC®導入を勧めた経営コンサルタントの杉原忠様と共に、お話を伺いました。

株式会社みらい福祉会
代表取締役
中臺 貴博 氏 Nakadai Takahiro

2014年の法人設立以来、⾧野県下伊那、飯田、松本エリアにおいて、地域に根差した福祉サービスの展開を続けており、2025年時点で、13事業所を運営中。

“いいみらいをつくる”理念のもと、利用者様ご家族様の「みらいへの準備」・「前向きな経験づくり」をコンセプトの一つとして広く細やかな支援サービスを行っている。

一生懸命なのに、届かない。DiSC®導入前の理想と現実

―― 中臺さんは、かつて経営に深刻な課題を感じられていて、悩みの日々の中でDiSC®に出会い、率先して導入されたと伺っています。ご自身を振り返って導入以前は、経営者としての在り方や組織の状態について、どのような状態でしたか?

中臺氏:まず感覚的な話ですが、さまざまな課題を抱えていたので、いつも不安でビクビクして、そしていつも何かに怒っていたことを振り返って思います。直面した情報について自分の頭で解釈できない状態でした。ひとつ問題が来たら、それに対してぱっと反応してしまうような、そんな日々だったと思います。一生懸命だけど、混乱した状態でした。

――今はとてもそんな風には見えないですね。

中臺氏:当時は、世の中の常識や社会のルールなどの当たり前なことに対して「なんで世の中が合致してないんだ!?」といった思い込みを持っていました。例えば「私はみんなのためを思って発言しているのに、なんでここで同意をしてくれないんだ」「本にはこう書いてあって、これが正しい知識なのだから、その通りにやれば絶対成果が出るのに、なぜみんな、それに従ってくれないんだ」といったことを、自信を持って思っていました。

――特に経営者は、自分に自信がないと、という思いが先行してしまうこともありますよね。その時の組織の状態…例えば職員の方々との関係性や会社の雰囲気はいかがでしたか?

中臺氏:やはり当時を振り返ると、感覚として業績は芳しくありませんでした。「このくらいのリソースと環境があれば、このくらいの成果が出るはず」と、金額面でも利用者の満足度の面でも期待値を持っていました。しかし、現実はそうはいかなかった。通所型の施設運営においては、稼働率も思うように上がらず、手応えを感じられない日々が続いていました。

そんな中、組織の状態を立て直そうと職員と話をしようとすると、反応は大きく二つに分かれました。ひとつは、私の話に「いいですね、社長の言う通りです」と同意してくれる人。ただ、実際にはなかなか動いてくれない。もうひとつは、私が近づくとすっと距離を取る人でした。

いずれにせよ、本音を語ってくれる人は少なく、職員同士の議論も活性化していない。言葉を交わしているようで、実は何も語られていない。そんな空気が、社内に漂っていたように思います。

―― 経営者として理想的な経営を追い求めているけれども、何か組織が回っていないご感覚があったのですね。

中臺氏:ひとつ、今では笑い話のように語れるエピソードがあります。私はもともとNPO法人で理事と事務局長を務めており、そこにいた職員たちとともに、現在の株式会社を立ち上げました。当時は、自分なりの理想像があり、「これからはみんなでこういう組織をつくっていこう」と旗を振っていたんです。

その理想を語ると、皆が「そうですね」「その通りです」と言ってくれていました。特にある職員には、新たに設立する会社の1つの地域拠点の責任者を任せることになっていて、登記も完了し、いよいよ「今日からみらい福祉会としてスタートだ」という初日を迎えたのですが——その方が突然、姿を消したんです。

後になって、個人的なトラブルを抱えていたことがわかったのですが、その時点ではまったく気づいていませんでした。しかもその後、他の職員たちが口々に「あのときちょっと様子がおかしかったかも」「なんか変だったよね」と言い出したんです。「そんな兆しがあったのに、自分にはまったく見えていなかったとは…」と、強いショックを受けました。

あの出来事は、「組織として何かがつながっていない」「本音が交わされていない」ということを痛感するきっかけになったように思います。

とはいえ、それらの空気感だけでなく、業績という数字にもはっきりと現れていました。 職員が目標に向けて取り組むべきタスクは処理されず、未完のまま残るものも多い。なのに、進捗を尋ねてもはっきりした返答が返ってこない。「イエス」と言いながら実行されない、問いかけてもはぐらかされる——そんな小さな齟齬の積み重ねが、次第に組織の停滞感につながっていったように思います。

会議で熱を込めて語った後にも、どこか白けたような雰囲気が残る。言葉は届いているはずなのに、心までは届いていない。その違和感を、当時の私はうまく言葉にできないまま抱えていました。

「今となっては笑い話ですが——」と、過去の大変な時期を謙虚に語ってくださいました。

“みんなのため”が空回り…周りとの「違い」への気づき

――そうした苦悩を抱えて悶々とされていた中で、DiSC®との出会いがあったと伺いました。改めてなぜ、DiSC®を受けようと思われたのでしょうか?

中臺氏:私の感覚としては経営がうまく行っていない中で、特に退職者が多くて。会社の規模がまだ小さかった頃、新卒で入職してくれた3名の学生が、いずれも退職してしまったことがありました。一体何が起こっているのか、分析できていないけど、これは何か行動しなければという気持ちになって、いろいろと調べている中でDiSC®との出会いがあったんです。

――元は杉原さん(※1)からのご紹介だったそうですね。

※1:株式会社杉原経済経営研究所の代表取締役・杉原 忠 氏。DiSC®パートナーであり、DiSC®研修はこれまで8,000人以上への実績を誇る。

杉原氏:私は経営コンサルタントとしてDiSC®に15年以上携わっておりますが、これまで出会ったすべてのクライアントにDiSC®を推奨してきました。導入のステップとしては、まず経営者の方に受けていただき、次に幹部層、そして最終的には全職員に展開していく、この流れを基本としています。みらい福祉会さんでもこの流れに沿って、全職員にDiSC®を実施していただきました。

――そのとき、中臺さんが「これは自分に必要だ」と感じたポイントは、どのような点だったのでしょうか?

中臺氏:DiSC®を勉強していくなかで、1度、DiSC®の研修を受けに行ったことがありました。うちの妻も一緒に受けたのですが、補足レポートで示された特性についてのグラフが私とは真逆で、「こんなにも人間って違うんだ」と改めて思いました。

ちょっと照れますけど、妻のことを愛していますし、ずっと一緒にいたいと思っている人なのに、「繋がりがある人間同士でもこんなに違うんだ」というのが衝撃でした。それがひとつ、大きなきっかけだったと思っています。

――DiSC®をご活用されることで、ご自身をどう認識されるようになりましたか?

中臺氏:私はDiSC®のレポート結果で、Dスタイルとiスタイルの特性が強く出ていました。以前の私は、「行動して結果を出すこと」は社会全体が大切にしている価値観だと思っていたんです。でも、もしかしたらそれは“社会”ではなく、“私”が大切にしていることなのかもしれない、と考えるようになりました。

それまで「社会がこうあるべきだ」と思い込んでいたのが、「私はこう考えている」というふうに「社会」から「私」へ主語が切り替わったことで、世界の見え方が一気に広がった気がします。以前は、自分の視点しかない“ワンワールド”だったのが、「私がいて、妻がいて、一緒に働くメンバーもそれぞれいる」。そんなふうに、多様な視点や価値観の存在に目が向くようになった。そういう意味で、自己認識の大きな変化があったと思います。

――経営者の方が、組織の問題より先に、まずはご自身の認識に課題を見出すのはすごいことですよね。

中臺氏:DiSC®の研修を受けたときに、これは統計に基づいて作られていると伺っていたんです。だから「誰かの解釈を通したもの」ではなく、ある程度、現実に即した情報なんだという感覚がありました。そういった意味で、信頼できる、安心して受け止められると感じましたし、自分自身と向き合う上でも、とても素直に入ってくる情報だったと思います。むしろ、そういう“根拠のあるもの”だったからこそ、受け入れやすかったのかもしれません。

―― ご自身の強みと弱みを客観的に理解することで、経営スタイルに変化はありましたか?

中臺氏:弊社では本当にさまざまな方が働いていて、年齢も20代から80代まで、職種も保育士さんや教員、介護職、児童指導員、最近ではリハビリ職の方も加わってきています。そうした多様な人たちと働くうえで、「見える化(視覚化)」の重要性を強く感じるようになりました。

私は、業績を上げるために必要なこととして、「決定→伝達→実行→チェック→報告」といったサイクルを重視しているのですが、DiSC®を学んだことで、そうした一連のステップの中でも、特に「お願いの仕方」が大きく変わりました。

例えば以前は、私に対して距離を取る職員に対して、「誠実でないのでは」「能力が足りないのでは」と思ってしまうことがありました。でも、DiSC®を通じて、もしかしたらその人は“私との対立を避けようとしているだけ”かもしれない、という仮説が持てるようになったんです。統計的な特性の理解が、私の接し方の選択肢を広げてくれたというか。素直に仮説が立てられるようになりました。

実際にその仮説に基づいて接してみたら、驚くほどスムーズに伝わって、行動に移してもらえた。そんな経験を重ねることで、「相手によって接し方を変えることの大切さ」を実感するようになりました。

それ以降は、新しい仕事をお願いする際にも、「これは既存の枠組みを活かして成果を出すタスクだから、この人の強みが生きるな」「これは未知の領域に飛び込んで道を切り開く仕事だから、あの人のアプローチが合いそうだな」と、タスクの特性に応じて、どんな進め方や関わり方がその人らしさを活かせるかを考えて任せるようになってきたと思います。そういう意味で、経営スタイルそのものに、確かな変化が生まれたと感じています。

「社会」から「私」へ主語が切り替わり、多様性の観点で仮説を持てるようになると共に、統計的な特性の理解によって相手の接し方の選択肢が広がったという——
中臺氏のEverything DiSC®マップ:Diスタイル

――ご自身がDとiのスタイルを持っているというお話がありましたが、ご自身の特性を認識し、相手の特性に対してもある程度仮説を立てて、その人に合ったやり取りができるようになった、ということでしょうか?

中臺氏:そうですね。あともうひとつ、大事にしていることがあります。例えばあるスタッフに対して、「今の自分とはちょっと合わないかもしれない」と感じる場面では、無理に自分から関わろうとせず、別のスタッフに間に入ってもらうようにしたんです。先ほどお話ししたように、私と妻はDiSC®の特性が真逆なのですが、社内でも長く一緒に働いてきた信頼するスタッフたちが、私とは異なる特性を持っていることがわかってきました。

そこで、「この人には、自分よりもあのスタッフの方がうまく伝えられる」と思ったときは、その人にお願いするようにしたんです。

“自分が変わると、組織も変わる”──自己認識の転換が定着率を動かした

――ご自身が変わったことで、職員の方との関わり方やコミュニケーションが変わられたとのことですが、その成功体験についてお聞かせください。

中臺氏:やはりはっきりと効果が現れたのは、職員の定着率が格段に高まったことです。DiSC®を導入して数年後に、離職者が0だった年があったり、さらに正職員の離職が0の年もありました。離職率はおおよそ常に5%前後に収まるようになり、職員の定着に大きな数値が出ています。離職率が減ると、中小中堅企業の経営者たちの集まりでよく褒めていただきます。それも自信がついて嬉しかったですね。  

また職員の定着率が高まってくると、結果的に業績も上がってくるというのが現われてきて、「こういうことなんだ!」という、手応えを感じました。

――中臺社長が率先してDiSC®を導入され、ご自身でもそれに伴う研修を体験されていますが、その他の経営陣の皆さんも同じように体験されているのですか。

中臺氏:はい。DiSC®研修を社内で実施できるようにするため、私を含めた経営陣は、DiSC®認定資格を取得しています。その他のメンバーには、社外講師の杉原さんにご協力いただいたり、社内でもファシリテーションできる体制を整えながら、アセスメントの実施と研修・ワークショップを通じて、気づきを行動につなげる取り組みを行っています。

――管理職の方やリーダー層にも変化をお感じになったのですね。

中臺氏:そうですね。DiSC®の特性については、今では社内で共通言語のようになってきました。

よく「事実はひとつ、解釈は複数」なんて言われますが、人が何をどう考え、どう感じているかは目に見えません。だからこそ、「事実に基づく解釈」ならまだしも、「誰かの解釈に基づいた解釈がまた別の解釈を生んでいく」と、どんどん訳が分からなくなってしまうことがあるんです。でも、DiSC®には統計的な背景に基づいた“行動特性の分析結果”や、レポートに記載されている言葉の選び方などが非常に優れていて、そうした“言葉のツール”を使って社内で対話するようになってから、少し変化が見られました。

例えば、これまでなら人間関係のトラブルとして感情的に衝突しそうだった場面でも、「これは特性の違いかもしれない」と一歩引いて客観的に見る習慣ができてきたんです。
 その結果として、管理職の皆さんも、以前より冷静に、しかも丁寧に人間関係に関わる問題を扱ってくれるようになったと感じています。

そして改めて気づきました。私は、いろんな考え方や価値観を持った人たちと一緒に仕事がしたくて、この会社を立ち上げたんだって。違いがあるのは当然で、だからこそ共通の目的に向かって一緒に頑張りたい、という気持ちが自然と戻ってきたんです。もしかしたら、そういう経営者としての意識の変化が、細かな施策や組織の空気にじわじわと反映されていったのかもしれません。今振り返ってみると、そう思いますね。

“心のアルバム”がつなぐ職場──定着率が語る、信頼関係の再構築とその方法

――現在、みらい福祉会さまでは、職員の帰属意識が高いとうかがっています。そう感じる場面はありましたか?

中臺氏:最近ちょうど、管理職が集まる会議があって、たしか評価の時期だったと思います。「どうだった?」「最近、誰々さんは?」といった会話が自然と出てくる場面があったんです。

例えば弊社では、面談の制度にかなり力を入れています。その際、管理職は必ず自分自身のDiSC®の特性を確認した上で、面談相手のレポートにも目を通してから臨むようにしています。

そのとき、みんなが話していたことが、以前とはちょっと違っていました。「〇〇さんはこういう願いを持っていて、でも今の仕事とのギャップがあって…」とか「あの人の家庭はこういう状況でね」「あの人って、こういう価値観を大事にしている人なんだけど…」というような、“その人の人柄”や“背景”に触れる言葉がすごく増えていたんです。

以前は、「できる・できない」「成果が出ている・出ていない」「困っている・困っていない」といった評価軸の話が中心だったのに、今はその人の生活や大切にしているものにまで目を向けた言葉が自然と出てくるようになった。「あの家は子どもがまだ小さいから、今はこういう配慮が必要かもね」とか、そんなふうにお互いの家族の話まで共有するようになってきていて、私はそれをとても良いことだと感じています。

――かなりいい雰囲気ですね。今、面談に力を入れているお話がありましたが、経営者として、職員が「この会社で働きたい」と感じてくれる環境作りのために行われていることはありますか?

中臺氏:取り組みのひとつとして、経営コンサルタントの方のご指導を受けながら、タイミングを見て制度化してきたことがあります。例えば、入職時には先輩職員と新入職者をペアリングし、定期的に1on1を行う「メンター・メンティ制度」を導入しています。

この仕組みは、新しく入ってきた方が感じやすい“現場とのギャップ”を少しでも減らすことを目的としたもので、定着率の向上にもつながっていると感じています。それこそ、職員の満足度アンケートのようなものを毎年実施しているのですが、やはりその数値が安定して推移するように、少しずつでも上がり続けるようにという思いが常にあります。なので、正直、打てる手はすべて尽くしてきたつもりですが――その中でも、特に人間関係に直接作用していると感じているのが「面談」なんです。

杉原氏:特に「みらい福祉会」さんは、職員の「定着率の向上」が大きなテーマだったこともあり、まずは新人職員の支援としてメンター制度を導入し、次に全体の定着に向けて1on1制度を組み込んでいくという段階的な取り組みを進めてこられました。そうした仕組みが、現在の組織づくりの土台になっていると感じています。

――DiSC®導入前も、さまざまな取り組みをされてきてはいたのですものね。では、導入したことで、職員の方々も会社に対して信頼感を持つようになったということですね。

中臺氏:はい、実際そう感じています。今になって思うのですが——当時はわかっていなかったこととして、人は誰しも、心の中に“アルバム”のようなものを持っているんじゃないかと思うんです。

そのアルバムには、自分のなりたい姿、理想の自分、過去にあった嬉しかったこと、悲しかったこと…そういう記憶や感情が収められているようなイメージです。そして、そのアルバムをそっと誰かに見てもらって、「それって大事なことだよね」とか、「そんなことがあったんだ」と受け取ってもらえると、すごくホッとする。私自身もそうでした。それが今では、私だけじゃなく、職員のAさんがホッとした、Bさんがホッとした——そんな“安心の連鎖”のようなものが、職場の中で少しずつ生まれてきていることを感じるんです。

――「心のアルバム」、とても素敵な表現です。アルバムは信頼してる人にしか見せないものですものね。

中臺氏:そのアルバムに、自分の存在や価値をそっと入れてもらえるような関係性をつくろうと思ったときに、DiSC®のようなアセスメントはすごく役に立つと思うんです。

ちょっと現実的な話をすると、過疎地での障害福祉の現場って、本当に人が減ってきていて、働く魅力をどう伝えるかが課題になっています。 だからこそ、職員一人ひとりの“アルバム”の中に、「この地域で応援が必要な子どもたちを支える仕事」、「みらい福祉会という場」が刻み込まれていくことが大事だと思うんです。その“相手のアルバム”と対話していくときにも、DiSC®で特性をあらかじめ理解しておくと、関わり方の選択肢が広がっていいんじゃないかなと思っています。

――そうした対応が、職員の方々の帰属意識の高さにつながっていることがよく伝わります。面談の実施だけではなく、その内容面での変化が離職率の低下という効果として現れてきたということですね。

中臺氏:最近は、「辞めたい」と言ってくる職員が本当に少なくなったと感じています。以前は、毎年5人以上の職員から「退職を考えている」「他の仕事を探している」といった相談を受けていました。経営者としては、それがすごく心に刺さる言葉で、何度も頭の中で繰り返してしまうような感覚があったんです。

でも、ある時期から、そういう退職の申し出が、“終わりの宣言”ではなく「その人の心の中のアルバムを一緒に見る時間」になっていったんですね。「なぜ、そう考えたのか」「何がつらかったのか」――そうやって丁寧に話を聴いていくと、「もう少し頑張ってみようかな」と気持ちが変わるケースが増えてきたんです。

――DiSC®を学び、コミュニケーションの質が変わったことで、“もう一歩”踏み込めるようになった、ということですね。

中臺氏:まさにそうですね。自分と他人は違う――その前提に立てるようになると、相手に踏み込むことに、前よりもずっと勇気が持てるようになりました。

「分からないからこそ、聞いてみよう」
 「仲間だからこそ、大事に思っているからこそ、もっと知りたい」

そういう気持ちが、みんなの中に少しずつ芽生えて、今ではそれを、自信を持って行動に移せるようになったと思います。

一人ひとりが大切にしている“心のアルバム”。それをそっと見せ合う信頼関係が、相手に一歩踏み込み行動を変える勇気につながっています。

“一人で抱え込まなくていい”——経営者として、豊かに働くために

――では、ご自身の経験を踏まえて、「経営者が自己認識を深めることの大切さ」について、他の経営者の方々に伝えたいことがあれば教えてください。

中臺氏:やはり経営は、自分で望んでやっていることではありますが、責任もすごく大きいですよね。退職の申し出にぐさっと来ることもあるし、業績が予想より落ちてがくっと落ち込むこともある。そういう重さって、常にあると思うんです。でも、僕は「自分自身を知ること」で、経営がとても楽しくなりました。気持ちも楽になったし、「こうしなきゃいけない」という思い込みが減っていった。それは、会社を“幸せに”経営していく上で、とても大きなプラスだったと感じています。

最初は、「職員を幸福にしたい」「みんなを豊かにしたい」という気持ちでやってきたんですけど、あるときふと、「私も豊かになっていいのかな」と思えるようになったんです。そしたら、「みんな豊かになっていいよね」と思えるようになって。お金持ちになってもいい、健康であってもいい、孤独じゃなくて、愛に包まれていてもいい。新しいことに挑戦してもいい。

そんなふうに、自己認識を深めていくことで、自分にも、まわりにも、「もっと自由で、豊かであっていいんだ」と思えるようになりました。

杉原氏:経営者の方は、自分が“絶対に正しい”と考えている方が多いんです。それも無理はなくて、それくらいでなければ経営なんてやっていられないという側面もある。ただ、その思いが強すぎると、自分と違う価値観を持つ人たちを否定してしまいがちなんですね。そうすると、コミュニケーションがかみ合わなくなり、結果的に退職者が増えてしまう、ということもよくあります。

でも、DiSC®を通じて「職員と私は違う存在なんだ」と気づくことができれば、その瞬間から職員との関係性が変わっていくのです。中臺社長もまさにその転機を体験されたお一人です。

自分とは違うスタイルや強みを持った人たちを理解し、それぞれが力を発揮しやすい関わり方や環境を考えられるようになると、組織全体が一気に動き出すんです。みらい福祉会さんがいい組織になったのも、まさにそうしたチームづくりが実現できたからだと思います。

――実際、中臺さんは経営者の仲間にDiSC®を伝えたりするんですか。

中臺氏:はい。「この人、今ちょうど準備ができているな」と感じたときには、お伝えすることがあります。私自身もそうだったんですが、何かを変えるには、やっぱり“きっかけ”が必要だと感じます。

例えば「会社の業績が思うようにいかない」とか、「家族関係がうまくいっていない」とか、何かひとつ行き詰まりを感じるとき。それまでは「自分はこういう人間だ」「このやり方でやってきた」と思っていたけれど、「もしかしたらちょっと違うかもしれない」「別のやり方を試してみたい」っていう気持ちが芽生えたときに、そういうタイミングの人には、「こういうのがあるから、やってみたら?」と、自然におすすめすることがあります。

――それでは最後に、組織の変革を考えている企業の皆さまに、一言お願いします。

中臺氏:皆さん、本当に日々一生懸命にお仕事をされていると思います。でも、私自身の経験で言うと、一生懸命やっているのに、どこか孤独なまま頑張り続けてしまっていた。
それは、とてももったいないことだと、今は思います。人生の大切な時間ですから。

DiSC®を知ることや、HRDさんのような方々と出会うこと、そして外のリソースを上手に頼ること。そういった外からの支援を自然に受け入れられるようになると、会社の業績が良くなるだけじゃなくて、自分自身の人生も豊かで楽しくなっていく。そんな実感があります。

だからこそ、経営者の皆さんには、ぜひ一人で抱え込まず、外に手を伸ばしてほしい。そして一緒に、より良い会社、より良い未来をつくっていけたら嬉しいなと思っています。

2025年07月01日

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