個性がつながる新しいチームのかたち――フリースタイルスキー日本代表のカタリスト先行体験会レポート【前編】
世界の頂点を目指すフリースタイルスキー日本代表チームでは、卓越した技術やフィジカルだけでなく、「チームとしてどうつながるか」も重要なテーマになっています。個人競技でありながら、合宿や遠征を共にする彼らにとって、コーチ・スタッフ・選手同士のコミュニケーションは、競技力そのものに直結する要素です。
そうしたチームに、HRDがオフィシャルサポーターとして提供したのが、Everything DiSC® カタリスト(以下、カタリスト)の先行体験プログラムでした。選手とコーチが互いの「スタイル」を可視化し、本音で対話を重ねた一日で、何が見えてきたのか──体験会当日の様子と、現場の声を前後編に分けてレポートします。(本記事は【前編】です)

コーチ・トレーナー:8名
寺田 斉史さん(DC)/高尾千穂さん(DC)
藤田 斎文さん(D)/米谷 優さん(Di)
津田 健太朗さん(iS)
佐藤 大巳さん(S)
齋藤 隆行さん(CD)/北澤 裕次郎さん(CD)

選手14名
ニコルズ 皇吏さん(DC)/藤井 源さん(D)/山田 蒼天さん(D)/東 虎太郎さん(D)/古賀 結那さん(D)
松浦 透磨さん(iD)/藤井 世那 ジェームスさん(iD)
佐藤 可崇さん(Si)/山口 美月さん(SC)
菅原 希昴さん(C)/笠村 雷さん(C)/伊藤 瑠耶さん(CD)/武藤 健心さん(CD)
世界を目指すチームが直面していた“見えづらい課題”
フリースタイルスキー(以下、フリースキー)日本代表チームは、世界大会でのメダル獲得を視野に入れるトップレベルのアスリートが集う集団です。個人競技でありながらも、長期の合宿や遠征、日々の練習や試合を通じて、コーチ・スタッフ・選手が密に関わる「チーム」としての一面も持っています。
こうした特徴を持つチームでは、技術や戦術以上に「コミュニケーション」の課題が浮かび上がることがあります。目指すゴールは同じでも、意見がすれ違ってしまう。技術的なアドバイスがうまく伝わらない。信頼関係を築くなかで、相互理解のズレが大きな影響を及ぼすこともあると感じていました。
このような背景の中で、ヘッドコーチの津田健太朗さんは、今回のEverything DiSC® カタリスト(以下、カタリスト)の研修を通じて、長年感じていた“違和感”に名前をつけるような感覚を得たと話しています。

津田さん:「選手にとってのコミュニケーションは、目標達成のための大事な手段です。ただ、うまく噛み合わないと感じる場面も多々ありました。『コミュニケーションに正解はない』と思っていましたが、それぞれに“考え方の癖”や“スタイル”があると知って、これが理解できればもっと円滑になるのではと思いました」
技術だけでなく、心の機微やスタイルの違いにも目を向けること──そうした“目に見えにくい課題”にこそ、チームの未来を広げる鍵があるのではないか。
今回、カタリストのパイロット版を体験したことで、コーチ陣や選手一人ひとりに、これまで気づいていなかった“違い”や“強み”に向き合う機会が生まれました。この取り組みが、チームの未来をどう変えていくのか、カタリスト先行体験会の当日の様子とインタビューを通じて、そのヒントをご紹介します。

なぜ「カタリスト」だったのか──実施の背景と狙い

今回のカタリスト先行体験会は、HRDがフリースタイルスキー日本代表チームのオフィシャルサポーターとして協力を申し出て、パイロット版で先行体験していただいたものです。HRDでは、ビジネスや教育に限らず、スポーツの分野にも人材・組織開発の知見を活かし、チームの可能性を引き出す支援に取り組んでいます。
フリースキーチームには競技や技術のレベルだけでなく、海外遠征で長期で行動を共にすることからも、より日常的な関わりの中で相互理解を深め、信頼関係を築くことが求められます。HRDでは、その課題解決の糸口として、カタリストの体験会をご提案しました。
カタリストは、自分と相手の“スタイル”を可視化し、互いの違いを理解しながらコミュニケーションを取ることができるDiSC®の機能が集約した新しいオンラインプラットフォームです。スマートフォンやPCからログインできるオンラインダッシュボードでは、自分自身のスタイルだけでなく、他のメンバーのスタイルも一覧で表示され、比較や理解を助ける設計になっています。紙のレポートを読むだけでは得られにくい、継続的な理解と対話のきっかけをリアルタイムで提供できるのが特徴です。


当日の研修では、参加者それぞれが自身のスマートフォンでカタリストにログインし、自分と相手のスタイルを確認しながら対話するワークを実施しました。スタイルの違いを視覚的に把握しながら話すことで、言葉だけでは伝わりにくかった「価値観の違い」「受け止め方の違い」などが、構造的に理解できるようになっていきました。
「“考え方の癖”や“スタイル”が可視化されると、『どうしてこの人はこういう言動をするんだろう?』という疑問が解けるようでした」(津田氏インタビューより)
このように、スタイルの違いを“感覚”ではなく“構造”として捉え、チーム全体で共有・体験することができる点は、個人競技でありながらチームで行動する必要があるフリースキーチームにとって、非常に有効に働いたと言えます。
日常のコミュニケーションがスムーズになるだけでなく、チームとしての一体感を高める──カタリストの導入には、そうした期待も込められていました。
“可視化”から始まる本音の対話──自分を知り、他者を知るということ
「違いを前提に関わる」という視点の獲得
カタリストを活用した今回の研修では、DiSC®が大切にしている「自己理解から始まる関係性の構築」を、フリースキーチーム全体で体験的に取り組む機会となりました。
単に自分のスタイルについて理解を深めるだけでなく、ペアやグループでの対話を通じて、選手やコーチが「自分と他者の違い」を構造的に理解し、その違いを踏まえて関わろうとする意識が、自然と芽生えていきます。実際に、相手のスタイルを“変えるべきもの”ではなく、“前提として尊重するもの”として受け止め、言葉の選び方や距離感を調整する様子も多く見られました。
「違いがあることを前提に、お互いを理解したうえで関わる」「相手に合わせた声かけや接し方を考える」といった姿勢が、対話の中からにじみ出ていたのです。
体験会後には、「これまでなんとなく感じていた違和感に名前がついた気がする」「言葉にならなかった違いが見えた」といった声も聞かれ、カタリストがチーム内の相互理解の“入口”として機能していたことが伝わってきました。


コーチ陣に広がる“伝え方”の再構築
Dスタイルの藤田斎文コーチは、スタイルの違いを認識したことで、これまでのリーダーシップのあり方にも見直しの余地があると感じたといいます。
「自分のやり方に選手を巻き込んでいく、強いリーダーシップ型の指導をこれまではしてきました。ただ今回、他のスタイルの人たちと対話してみて、『マイペースに動きたい』『自分のタイミングで取り組みたい』と感じている人も多いんだと、改めて実感しました」
指導方針を一律に当てはめるのではなく、スタイルに応じた伝え方・関わり方を意識したいという声は、コーチ陣から多く聞かれました。
Diスタイルである米谷優コーチも、こう語っています。
「目的は同じでも、そこに向かうプロセスが人によって違うんだと理解できたのは大きかったです。それぞれが違うやり方で、同じゴールを目指している。その事実に気づけたのは、とても意味のあることでした」
このように、「違いを受け入れる」という視点が、チーム内でのコミュニケーションの幅を広げていく契機となっていたことがうかがえます。

「自分らしさ」を肯定する前向きな気づき
選手側にも、他者理解に関する気づきが見られました。
Cスタイルの笠村雷選手は、他者との比較を通じて、これまで腑に落ちなかった行動の背景を理解できたと話します。
「自分は結構、技とかやるときに論理派っていうか……感覚で動く人が『どういう気持ちでやってるのか』っていうのが、今回知ることができたと思います」
SCスタイルの山口美月選手も、相手との関わり方について新しい視点を得たようです。
「Cスタイルの選手が『つらいときはそっとしておいてほしい』って言っていたのを聞いて、自分とは違うなと印象に残りました。自分が“こうしてほしい”と思うことを自然と相手にもしてしまいがちだけど、そうじゃない人もいるんだっていうのは、大きな学びでした」
また、今回のカタリストの体験は単なる「他者理解」にとどまらず、「自分のスタイルを前向きに再確認する」機会にもなっていました。
CDスタイルの伊藤瑠耶選手は、「やっぱり自分ってこうなんだな」と納得感を持って結果を受け止め、Dスタイルの藤井源選手はDiSC®の回答結果を通じて「自分が論理的かもしれないと気づけた」と語っています。


カタリストを活用したワークを通じて、選手やコーチは“相手に合わせて関わる”という視点を持ち始めており、それがチーム内のコミュニケーションの質を底上げする起点となっていました。
こうした意識の変化は、チーム内のコミュニケーションの質を高めると同時に、選手同士・コーチ陣それぞれの「強み」を活かし合える関係づくりへとつながっていくはずです。

後編へ続く:「若い選手たちの変化──言葉にならなかったものが、見えてきた」
2025年12月15日
Everything DiSC®紹介資料
本資料では、Everything DiSC®がもたらす体験や対人関係についての尺度、組織カルチャーの共通言語となる特徴についてご説明し、併せて学術的背景、DiSC®理論概要、レポート詳細、活用事例などをご紹介しています。
