人材定着の鍵となる「キャリア形成支援」は、なぜ十分に活かされていないのか
原文:Career Pathing Is a Retention Lever You're Not Pulling
人材育成や人事の責任者に、日頃頭を悩ませている課題を尋ねれば、「人材の定着」と「エンゲージメント」が上位に挙がるでしょう。その背景にある要因を尋ねると、給与・報酬、業務量、マネジャーの質といった話題になることが少なくありません。
しかし、Wiley Workplace Intelligenceの最新調査からは、もう一つ注目すべき要因が見えてきました。キャリア形成に関する1,459名への調査で、従業員のエンゲージメントや組織にとどまる意向に、予想以上に大きく関わるキャリア開発の要素が2つあることが明らかになりました。しかも、どちらも具体的で、測定可能なものです。
さらに注目したいのは、この2つの取り組みには、人員を増やすことも、新たなプラットフォームに投資することも必要ないという点です。
マネジャーが部下の育成に使える時間が、人材定着とエンゲージメントを最も強く予測する
今回の調査で分析したさまざまな要因の中で、人材の定着意向とエンゲージメントの両方を最も強く予測する要因として際立っていたのは、マネジャーが部下の育成にどれだけ時間を割けるかという点でした。
マネジャーが部下の育成に「常に時間を割ける」場合、従業員の84%が「今の組織にとどまる可能性が非常に高い」と回答しています。一方、マネジャーが育成に「まったく時間を割けない」場合、その割合は41%に低下します。
エンゲージメントにも同様の傾向が見られます。マネジャーが育成に時間を割ける場合、従業員の76%が「自社の組織文化に魅力を感じている」と回答しました。一方、マネジャーがまったく時間を割けない場合、その割合はわずか23%でした。

マネジャーが常に育成に時間を割ける場合、84%が今の組織にとどまる可能性が非常に高いと回答
この差は、企業が多額の投資を行っている多くのエンゲージメント向上施策よりも大きなものです。しかも、マネジャーにキャリアコーチとしての役割を担わせたり、正式な育成計画を策定させたりする必要はありません。求められているのは、部下と向き合うための時間と余裕を確保することです。
マネジャーの育成時間を確保するために、経営層への提案や投資の必要性を説明しようとしている人材育成・人事の責任者にとって、この数字は有力な根拠になります。これは、単に「あれば望ましい」という程度の取り組みではありません。人材定着に大きな効果が期待できる、低コストの施策の一つなのです。
なぜなら、そのための時間は、すでにマネジャーの1週間の業務時間のどこかに存在しているからです。問題は、その時間を部下の育成に充てられるのか、それとも別の業務に費やしてしまうのかということなのです。
従業員が求める支援の優先順位は、すでに明らかになっている
今回の調査は、多くの企業が十分な根拠を持たないまま人材育成予算を組む際に向き合っている問いにも答えています。それは、「実際に何が従業員のエンゲージメントを高めるのか」という問いです。
従業員の回答は明確でした。67%が「スキル開発・研修」を挙げ、次いで「メンタリング」(54%)、「昇進・昇格に関する透明性の向上」(46%)、「マネジャーとの対話機会の増加」(44%)となっています。

エンゲージメント向上に役立つものとして、67%が「スキル開発・研修」を挙げ、最多となった
この結果は、企業が人材育成の優先順位を考えるうえで重要な示唆を与えています。従業員が求めているのは、福利厚生をさらに充実させたり、あらゆる施策の予算を増やしたりすることではありません。何を優先すべきかが明確に示されており、その最上位にあるのがスキル開発です。
次にどこへ人材育成予算を投じるべきか。従業員は、すでにその答えを示しています。研修やスキル開発は、キャリア形成支援とは別の取り組みではありません。従業員にとって、それこそがキャリア形成支援なのです。
組織のリーダーにできること
マネジャーが部下の育成に使う時間を、意識的に確保する。
マネジャーが部下の育成に割ける時間が、人材の定着意向とエンゲージメントを最も強く予測する要因であるならば、その時間の確保は、ほかの人材定着施策と同じくらい優先すべき課題です。マネジャーの業務量を計画する段階から、育成に充てる時間を組み込む必要があります。
直感だけでなく、データに基づいて人材育成の優先順位を決める。
従業員がエンゲージメント向上に役立つと考えるもののうち、最も多かったのは「スキル開発・研修」でした。新たな研修プログラムを一から開発する前に、現在の研修投資が、従業員自身が必要としているものと合致しているかを確認しましょう。
マネジャーが部下の育成に使える時間を、人材定着の重要な指標として捉える。
マネジャーが育成に「常に時間を割ける」場合と「まったく時間を割けない」場合の差は、多くのエンゲージメント向上施策が単独でもたらす効果を上回っています。マネジャーが部下の育成に時間を割けているかを把握し、その時間の確保を、ほかの人材定着施策と同様に重視することが必要です。
マネジャーとの対話を、研修を補完する低コストの取り組みとして活用する。
従業員の44%が、マネジャーとの対話機会が増えることはエンゲージメント向上に役立つと回答しています。中長期的なスキル開発への投資を進めながら、定期的に短い対話の機会を設けることで、エンゲージメント向上に向けた取り組みをすぐに始められます。
人材の定着とエンゲージメントは、課題が多岐にわたり、改善が難しいものに思えるかもしれません。しかし、今回の調査は、取り組むべき領域を大きく絞り込んでいます。マネジャーが部下の育成に使える時間と、スキル開発への投資だけが解決策ではありません。それでも、この2つは、データによって重要性が明確に示され、測定も可能な取り組みであり、大規模な追加投資をしなくても実行に移せるものです。
この課題にいち早く対応できるのは、最も大がかりなキャリア形成支援の仕組みを持つ組織とは限りません。むしろ、マネジャーが部下の育成に使う時間を確保し、従業員自身が求めるスキル開発に予算を投じる組織です。
原文:Career Pathing Is a Retention Lever You’re Not Pulling
執筆: Janelle Beck, Senior Copy Editor & Tracey Carney EdD, Research Manager
出典:WILEY Workplace Intelligence|Everything DiSC®(2026年9月25日公開)
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2026年10月13日
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