職場で広がるストレスの波及
原文:The Ripple Effect of Stress at Work
朝、職場に着くと、同僚たちが週末の出来事を楽しそうに話しています。コーヒーを片手に笑顔を交わし、新しい一週間を前向きに始めようとしている。その様子を見ているうちに、満員電車や子どもの送り迎えで感じていた朝の慌ただしさも、少し気にならなくなっていきます。気持ちが自然と前向きになり、「今週も頑張ろう」と思えた経験はないでしょうか。
反対に、朝はお気に入りのポッドキャストを聴いたり、ヨガでゆっくり身体を動かしたりして、気持ちよく一日を始められたとします。そして今日こそは積み残していた仕事を片付けようと意気込んで最初の会議に参加すると、そこには不機嫌で疲れ切った表情のメンバーばかり。誰かが無理な納期や非効率な業務プロセスへの不満を口にし始めると、それまでの穏やかな気分はどこかへ消え、自分自身も次第にストレスの原因ばかりを考えるようになってしまいます。そして気づけば、会議全体が重苦しい空気に包まれています。
こうした例は少し極端に思えるかもしれませんが、決して珍しいことではありません。
変化のスピードが速く、強いストレスや逆風が続く現在の職場では、人間らしい感情や行動が組織全体に影響を及ぼす場面は、日常的に起こっています。
今回、Wiley Workplace Intelligenceでは1,591名を対象に、ストレスとバーンアウトに関する調査を実施しました。その結果、2026年後半に向けて組織が見過ごせない重要な示唆が得られています。
それは、ストレスは一人の中だけにとどまるものではなく、チーム全体へと広がっていくということです。そして、その伝播は私たちが気づくよりも早く起こっています。
組織の階層を超えて広がるストレス
今回の調査で最も明確に示されたのは、リーダーのストレスが周囲へ与える影響です。
強いストレスを抱えているマネジャーのもとで働く従業員は、そうでないマネジャーのもとで働く従業員と比べ、自身のストレスレベルを平均1.3ポイント高く評価していました。マネジャーが日々見せているストレスや感情は、そのまま部下にも伝わっていきます。

ストレスの高いマネジャーのもとで働く従業員ほど、自身のストレスも高いと回答
しかし、ストレスの発信源はマネジャーだけではありません。調査では、同僚同士でストレスが伝播する影響は中程度から強い水準にあり、マネジャーから部下への影響を上回ることも明らかになりました。
チームの日常的な雰囲気、チャットでのやり取りのトーン、会議の場の空気感。これらはすべて、ストレスが広がる経路となります。つまり、ストレスマネジメントをマネジャーだけの役割として捉えることはできないのです。
ここでいう「ストレスの伝播(Stress Contagion)」とは、周囲の人のストレスを、表情や言動などの社会的・生理的な手がかりを通じて無意識に受け取ってしまう現象を指します。
さらに「ストレスの吸収(Stress Absorption)」とは、その一歩先の状態です。他者のストレスを、自分自身のストレスであるかのように心身で受け止めてしまうことを意味します。
これは個人だけの問題ではなく、チーム全体で共有される状態にもなり得ます。そのため、会議で一人が強い不満や苛立ちを口にするだけで、わずか数分のうちに部屋全体の空気が変わってしまうことがあるのです。
こうした結果は、組織がストレスへの対応をどのように考えるべきかについても、新たな視点を示しています。
ストレスを抱えた一人のマネジャーは、目に見えやすく、問題として認識しやすい存在です。しかし、チーム全体に広がるストレスは気づかれにくく、原因も特定しにくい一方で、人々の日々の心理状態に同じくらい、あるいはそれ以上の影響を与えている可能性が、今回の調査から示されています。
ストレスの連鎖を止めるもの
今回の調査では、ストレスの連鎖を断ち切る要因についても明らかになりました。その鍵となるのは、「信頼」と「行動」の2つです。

84%が「失敗した後も心理的安全性が保たれている」と回答
調査では、従業員の84%が「失敗をした後も心理的安全性が保たれている」と回答しました。これは、ストレスが周囲へ広がることを防ぐ要因として、今回の調査で最も一貫して確認された結果です。
人は、プレッシャーのかかる状況でも互いの信頼関係は揺らがないと感じられると、マネジャーのストレスがチーム全体へ波及する可能性は大きく低下します。心理的安全性はストレスそのものをなくすわけではありません。しかし、そのストレスが周囲へ広がることを防ぐ役割を果たします。
もう一つの重要な要因は、「具体的な対応(Responsiveness)」です。従業員の60%が、「マネジャーはバーンアウト(燃え尽き症候群)に対して、共感を示すだけでなく、具体的な対応を取っている」と回答しました。
共感だけでは、ストレスの連鎖を防ぐことはできません。必要なのは「行動」です。問題を言葉にして共有し、そのうえで業務の再配分や期限の見直しなど、具体的な対応につなげることで、ストレスが組織内へ広がる前に、その負荷を受け止めることができます。

60%が「マネジャーはバーンアウトに対して実際に行動している」と回答
リーダーに求められるアクション
今回の調査が示しているのは、「ストレスをうまく管理しましょう」といった抽象的な呼びかけではありません。組織が実際に取り組むべき、具体的な行動です。
ストレスは、広がる前に言葉にする
マネジャー自身がストレスを隠すのではなく、率直に認識し、言葉にすることが重要です。そうすることで、チームメンバーは職場で起きている状況を理解しやすくなり、理由の分からない緊張感をただ受け止めるだけの状態を避けることができます。
失敗直後の対応を大切にする
心理的安全性は、失敗した直後の場面で最も築かれ、また試されます。問題が起きた直後、マネジャーが最初の数分間でどのように対応するかは、どのようなウェルビーイング施策よりも、その後のストレスの広がりを防ぐうえで大きな影響を与えます。
共感だけで終わらせず、具体的な対応につなげる
バーンアウトについて共感を示すだけでは、ストレスの連鎖を防ぐことはできません。必要なのは、その後に具体的な行動を起こすことです。業務を再配分する、納期を調整する、一時的に予定を見直すなど、実際の対応によって初めてストレスの広がりを抑えることができます。
マネジャーだけでなく、チーム全体の状態にも目を向ける
ストレスは、マネジャーから部下へ伝わる以上に、同僚同士の間でも広がっています。そのため、マネジャー向けの研修だけでは十分とは言えません。チーム内で愚痴や不満がどのように語られているか、仕事量についてどのような会話が交わされているかなど、日常のチーム文化にも同じように目を向ける必要があります。
結論:ストレスは広がる。しかし、安心感もまた広がる。
リーダーは、チームに降りかかるあらゆるストレスを取り除くことはできません。しかし、そのストレスがチーム全体へ広がるのか、それとも自分のところで食い止められるのかには、大きな影響を与えることができます。
ストレスが生じたときに、それを言葉にして認識し、次に取るべき行動を明確に示すこと。そして、チームに築かれている心理的安全性を守り続けること。それが、プレッシャーが組織全体へ連鎖していく組織と、組織の中で受け止められる組織を分ける要因となります。
ストレスは人から人へ伝わります。しかし、同じように「安心感」もまた、周囲へ広がっていきます。
成果を上げ続けるチームとは、ストレスがまったく存在しないチームではありません。ストレスを早い段階で察知し、言葉にし、広がる前に適切な対応を取れるチームなのです。
原文:The Ripple Effect of Stress at Work
執筆: Janelle Beck, Senior Copy Editor & Tracey Carney EdD, Research Manager
出典:WILEY Workplace Intelligence|Everything DiSC®(2026年7月24日公開)
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2026年07月25日
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