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職場で静かに失われる『希望』

原文:The Quiet Erosion of Hope at Work

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ここ数年、企業を取り巻く環境は大きく揺れ動いてきました。その中で、従業員体験(Employee Experience)をめぐる議論では、組織が抱える課題に光が当てられることが増えています。頻繁に耳にするようになった言葉には、「バーンアウト(燃え尽き症候群)」「ディスエンゲージメント」「Quiet Quitting(静かな退職)」「The Great Pile-On(役割や業務の過剰集中)」などがあります。いずれも、限界に近づいた労働環境を象徴する言葉です。

しかし、ここで別の問いを投げかける必要があります。それは、「職場に希望は残っているのか」という問いです。人々は日々の仕事の中で喜びを感じられているのでしょうか。それは理想論としてではなく、人々の働き方や組織への定着、そして仕事にどれだけ主体的に関わろうとするかに影響を与える、測定可能な日常の実態として捉えるべきものです。

Wiley Workplace Intelligenceが1,600名を超える従業員を対象に実施した最新調査では、職場に対する意識は単純ではなく、多面的であることが明らかになりました。多くのリーダーが想像している以上に前向きな結果が見られる一方で、課題は単に「従業員のエンゲージメントが低下している」とひとくくりにできるものではありません。

そして、この違いを正しく理解することが、組織が次に取るべき行動を考えるうえで極めて重要になります。

前向きな結果も明らかに

調査結果には、前向きな側面も明確に表れています。従業員の76%が、「仕事の中で定期的に喜びを感じている」と回答しました。組織を取り巻く環境変化が広範に及ぶ現在において、この数字は注目に値します。

10人中9人が「仕事で最善を尽くそうという意欲を持っている」と回答

モチベーションに関する結果は、さらに力強いものでした。従業員の10人に9人が「仕事で最善を尽くしたいという意欲がある」と回答し、93%が「自分の役割が組織の成功にどのように貢献しているかを理解している」と答えています。

これらの結果は、従業員が意欲を失っている状態を示すものではありません。仕事の目的意識は依然として高く、人とのつながりも保たれています。実際、85%が「一緒に働く人々とのつながりを感じている」と回答しています。

こうした結果は、多くの従業員がさまざまな負荷を抱えながらも、高いレジリエンスを発揮していることを示す重要な示唆と言えるでしょう。

モチベーションとキャパシティ(業務遂行の余力)のギャップ

ここで、調査結果はより複雑な様相を見せます。仕事における喜びが薄れていると感じている従業員のうち、50%は「職場で他者とのつながりも弱くなっている」と回答しました。仕事の喜び組織への帰属意識は切り離されたものではなく、互いに支え合う一方で、同時に失われていく可能性もあるのです。

「仕事を十分に遂行する時間がある」と回答したのは63%のみ

こうした負荷は、とりわけキャパシティ(業務遂行の余力)のギャップと役割や状況の明確さに表れています。「仕事を十分に遂行するための時間がある」と答えた従業員は63%にとどまり、必要なリソースが整っていると回答した人も68%でした。これは決して小さな差ではありません。約4割の従業員が仕事を十分にこなす時間を確保できていない状況では、モチベーションそのものが失われるわけではないものの、将来への希望は少しずつ失われていきます。

今回の調査が示す、組織がいま直面している中心的な課題は、「モチベーションとキャパシティのギャップ(Motivation-Capacity Gap)」です。従業員には成果を上げたいという意欲があり、自らの役割の意義も理解しています。しかし、その意欲やコミットメントに見合うだけの環境や条件が整っていないのです。

仕事の喜びを生み出すのは「チーム」

今回の調査で特に印象的だったのは、職場で感じる喜びがどこから生まれるのかという点です。

「仕事における喜びに最も大きな影響を与えているものは何か」と尋ねたところ、39%が「自分のチーム」と回答しました。一方、「自分自身が生み出している」と答えた人は19%、シニアリーダーシップを挙げた人はわずか6%にとどまりました。

従業員は、シニアリーダーシップよりも6倍以上の割合で、自分のチームが仕事の喜びをもたらしていると考えています。これはリーダーへの批判ではありません。むしろ、組織において喜びがどのように生まれるかを示す結果です。

仕事の喜びは、現場の日常に根ざしています。日々のやり取りや協働の瞬間、そして一緒に働く仲間から「自分の存在が認められている」と感じられる、小さくても積み重ねられた経験の中で育まれていくのです。

39%が「職場で感じる喜びの主な源泉はチームである」と回答

この結果が示す意味は明確です。全社向けのメッセージやキャンペーン、トップダウンのカルチャー施策だけでは、仕事の喜びが生まれる本質的な場所を捉えきれない可能性があります。仕事の喜びは、チームという最も身近な単位で育まれ、あるいは失われていくものなのです。

板挟みになるマネジャー

今回の調査において、マネジャーほど複雑な負担を背負っている立場はありません。

マネジャーは、その役割上、チームメンバーの希望やモチベーションを支える存在です。組織の戦略を現場で意味のある行動へと落とし込み、不確実な状況の中でもチームをまとめ上げ、組織文化を日々の実践を通じて体現する役割を担っています。しかし、そのマネジャー自身が大きな困難に直面しています。

部下を持つマネジャーの46%が「深刻なストレスを感じている」と回答したのに対し、部下を持たない従業員では27%でした。マネジャーは、メンバークラスの従業員と比べて約2倍、深刻なストレスを抱える傾向にあります。

この影響は、組織全体へと波及します。マネジャーがチームへの支援を意図的に控えているわけではありません。マネジャー自身が十分な支援を受けられていない状況に置かれているのです。

これは、組織全体の希望や仕事の喜びにも大きく関わる問題です。なぜなら、マネジャーが日々経験していることは、そのまま従業員の体験にも反映されるからです。マネジャーに過度な負荷がかかれば、現場の方向性は曖昧になり、必要な承認や評価も行き届きにくくなります。そして、マネジャーが強いストレスを抱えるほど、組織からのプレッシャーから従業員を守る“緩衝材”としての役割は弱まっていきます。

役割を理解していることと、その役割で力を発揮できることは別である

最後に注目したいのは、組織が見落としがちな大きな可能性を示す調査結果です。

従業員の93%が、自身の役割が組織の成功にどのように貢献しているかを理解している一方で、「現在の役割が自分の強みを活かせている」と回答したのは75%にとどまりました。役割への理解と、自身の強みとの適合との間には18ポイントのギャップがあり、その差の中に、本来発揮されるはずの人的ポテンシャルが十分に活かされていない実態が表れています。

仕事に何が求められているかを理解していることと、「その役割で自分の強みを発揮できる」と実感できていることは同じではありません。役割が個人の強みと適合している場合、モチベーションや仕事の喜びは高まります。しかし、そうでない場合には、自身の仕事の意義を理解し、その価値を信じている従業員であっても、成長を実感するのではなく、目の前の業務をこなすことに追われてしまいがちです。

このように、役割への理解と、自身の強みとの適合との間にあるギャップは、役割を十分に理解している従業員であっても、仕事における喜びを感じにくい理由の一つを説明しています。何をすべきかは理解していても、その仕事が自分の強みを十分に引き出しているとは感じられていないのです。

組織に求められるアクション

今回の調査が示しているのは、単なる精神論や理想論ではありません。組織が実際に取り組むべき、具体的な打ち手です。

キャパシティ(業務遂行の余力)を守る――コミットメントだけに頼らない

従業員のモチベーションは依然として高い水準にあります。問題となっているのは、時間やリソースの不足です。

組織が従業員の前向きな状態を維持・向上させたいのであれば、業務量や支援体制、そして従業員が「ただ仕事をこなす」のではなく、「成果を上げるために本当に必要な環境」を備えているかについて、より踏み込んで見直す必要があります。

あらゆる階層で方向性の明確さを強化する

組織の方向性は、自然に伝わるものではありません。各階層で繰り返し確認され、現場の文脈に落とし込まれ、継続的に共有されることで初めて浸透します。

一度メッセージを発信しただけで、相手に正しく伝わったと考えるべきではありません。

マネジャーへの支援を優先する

組織全体の希望や仕事の喜びを高める最も効果的な方法は、マネジャーを支援することです。

そのためには、マネジャーのウェルビーイングを後回しにせず、戦略上の重要課題として位置づける必要があります。マネジャーに十分な時間、明確な方向性、そして必要なリソースが与えられれば、その好影響はチームメンバーにも広がっていきます。

チームへの投資を重視する

仕事の喜びを最も身近に生み出しているのは、経営層ではなく、ともに働く仲間です。

チーム内の関係性や心理的安全性、日常的な承認を育むための取り組みは、仕事の喜びを支える源泉そのものへの投資と言えるでしょう。

役割と強みのミスマッチを縮める

役割を理解していることは出発点に過ぎません。本当に重要なのは、従業員が自らの強みを活かせる役割の中で力を発揮できることです。

その実現に向けては、意図的なキャリア開発の対話や役割設計を行うことが、大きな成果につながる可能性があります。

結論:希望は失われたのではなく、支える環境が求められている

今回の調査が描き出しているのは、「希望を失った従業員」の姿ではありません。そこにあるのは、依然として十分なモチベーションや目的意識、人とのつながりを持ちながらも、それらを維持し続けることを難しくする構造的な制約の中で働いている人々の姿です。

だからこそ、組織には大きな可能性があります。土台となる意欲や目的意識、つながりは、まだ失われていません。従業員は成果を上げたいと考え、自らの仕事やともに働く仲間とのつながりを感じています。そして、希望も仕事の喜びも、失われたわけではありません。彼らに必要なのは、それらを単なる理想に終わらせず、日々の現実として実感できる環境です。

その実現は、決して手の届かないものではありません。そして今回の調査データは、組織がどこから着手すべきかを明確に示しています。

原文:The Quiet Erosion of Hope at Work
執筆: Janelle Beck, Senior Copy Editor & Tracey Carney EdD, Research Manager
出典:WILEY Workplace Intelligence|Everything DiSC®(2026年5月22日公開)

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2026年06月22日

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