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【ポストコロナの組織・人材戦略を見通す】~戦略人事の新たな役割と経営戦略を組織・人材戦略に落とし込む方法~

ポストコロナの組織・人材戦略を見通す
~戦略人事の新たな役割と経営戦略を組織・人材戦略に落とし込む方法~

株式会社ライズ・コンサルティング・グループ 
取締役パートナー
佐藤 司 氏

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登壇者のご紹介

佐藤 司 氏 
株式会社ライズ・コンサルティング・グループ 取締役パートナー

ローランドベルガー、コンサルティングベンチャーの立ち上げメンバーとして、戦略立案から実行まで一貫して支援。 小売業、製造業、エネルギー、金融等多くの業界・テーマでの知見を持つ。 ライズ・コンサルティング・グループ参画後は、新規事業戦略案件、海外進出戦略、ビジネスモデルの刷新、中期経営計画等の戦略コンサルティングを担当。

株式会社ライズ・コンサルティンググループ
ライズ・コンサルティング・グループ社では様々なクライアントや経営層に対して、デジタル・トランスフォーメーション(DX)やディスラプトの戦略立案から実行まで一気通貫のご支援をされています。
これらに関してお困りの際には、気軽にご相談ください。
https://www.rise-cg.co.jp/

また、ライズ・コンサルティング・グループ様のサイトにおいても、当イベントについての紹介をいただいておりますので、ぜひご覧ください。

https://note.com/rise_cg/n/nf093318ec2a2

ReThink Day1 イベントレポート

HRDグループが毎年開催しております「Assessment Forum Tokyo」、今回はオンラインに形を変え、コロナ禍に向き合う新しい未来のための価値あるコンテンツを提供する場として開催されました。 経営戦略やDX、グローバル人事など、より広い視点から組織・人材マネジメントについて問い直し、再出発するための一連のデジタルイベントとして多く方のご参加を賜りました。

今回は、株式会社ライズ・コンサルティング・グループの取締役である佐藤司氏をお招きして開催された、「ポストコロナの組織、人材戦略を見通す。戦略人事の新たな役割と、経営戦略を組織、人材戦略に落とし込む方法」の模様を皆様にお届けします。HRDグループの韮原祐介がモデレーターを務めた対談形式によるイベントレポートです。 

コロナ禍における経営環境の変化をチャンスに変える

韮原:早速ですが、ポストコロナ、あるいはデジタル化が進んでいく中、組織や人材に対する考え方にどのような変化が生じ、それを経営者や人事担当者がどのように捉えているのか、その現状から簡単にお話しいただけますでしょうか。 

佐藤:これをチャンスと捉えるのか、ピンチと捉えるのか、それは経営者次第だと思っています。僕はこのような変化はチャンスと捉える方が得だと思っています。世の中が、どのように変わっていくのかを見据え、先手を打った人が有利になっていくと考えています。ですから本日は、そのような観点からお話できたらと思います。 

NEW NORMALイメージ

韮原:企業の経営戦略は、withコロナやポストコロナでどのように変わっていくのでしょうか。コロナの有無に関わらず、デジタル化は急速に拡大しているので、その点も含めてお聞かせください。 

佐藤:今回、COVID-19の感染が拡大した結果、感染予防のために、各国で移動が制限されました。移動が制限されたといっても生活はしなければなりませんし、少し落ち着いた頃には事業も回していかなければなりません。そのための手段として、デジタル化が進んでいます。
様々な領域でデジタル化が進んでいますが、その結果、閾値を超えて軸足が変わってくる領域が現れます。軸足が変わった世界を様々な角度から考えてみると、「こうすれば、もっとよくなる!」という変革や再構築のチャンスはたくさんあるように思います。 

分かりやすい例では、営業シーンは大きく変わってきたと思います。従来は対面営業が中心で、例えばBtoBであれば、お客様にアポを取ったのちに訪問し、会議室で話すことが多かったと思います。しかし最近では、ZoomやTeamsなどのオンラインに変わってきています。これは、「営業チャネルがデジタルに変わったと」捉えるだけでは不十分ではないかと思います。 

資料 「営業シーンの変化」 出典:ライズ・コンサルティング・グループ
「営業シーンの変化」 出典:ライズ・コンサルティング・グループ

おそらく変化の本質は二つあり、一つは、「ブラックボックスの透明化」かと思います。つまり、リアル営業の頃は、上司である営業課長が部下の営業を同行して中身を把握できるのは、多くても10%程度だったかと思います。それがオンライン営業になると、仮に録画をしていればその録画データを解析できますし、例え録画をしなくても、最近はストリーミングで音声や表情を解析できるようになっています。したがって、全件モニタリングが可能になったわけですね。
 
もう一点の変化は、「地理的な制約からの解放」です。つまり、リアル営業の頃は、移動時間を計算して動いていたので、例えば都内であれば1時間のアポのために、最低でも2時間~3時間はブロックしていました。出張では1日、2日ブロックする必要がありました。しかし、それがZoomやTeamsを使用することで、東京にいながら、一瞬で沖縄の方とでも、北海道の方とでも会話をすることができます。したがって、移動時間や地理的な制約が無くなりました。 

このような変化を捉えると、営業はどのように再構築できるのか?例えば、会議動画をストリーミングしていく中で、自然言語解析を使いテキスト化したり、サマリにしたりできれば、議事録もある程度は自動作成できます。そして、その議事録をSalesforceに自動的に登録したり、Salesforce上でステージ管理ができるようになります。例えば、初回の商談だったけれども見積依頼をもらったのでステージを進める、ということも自動的に管理できるように、営業の周辺業務も効率化できると考えています。 

さらに次のステップになると、ストリーミングをしながら、営業マンと相手の表情や会話内容がどれだけシンクロしているのかを解析することができるようになります。心理学でいうミラーリングの度合いによって商談を評価したり、表情の作り方・話し方含め、「これを直せばもっと良くなる」という基本トレーニングも自動化できるようになります。 
さらに言いますと、商談の進捗があるものと、進捗が無かったものを比較したときに、どのような話法の違いがあるのかといったことまで分析できるようになります。つまり、ベストプラクティスの抽出と展開ができるようになります。デジタルの世界でいうA/Bテストを、オンライン商談にも導入し、話法を進化させることができます。 

さらには金融や不動産では、重要事項説明をしっかりとする必要があったり、金融においては、「絶対に儲かる」といったようなNGワードがあるので、全件モニタリングができることによって、コンプライアンスも格段に改善することができます。 

このように効率化が進んでいけば、人間は単純業務から解放され、より高付加価値業務に特化できるようになります。地理的な制約を外すことにより、全国に営業組織を持っている会社であれば、エリアごとに人を配置する必要もなくなり、商品やプロダクトごとに地理を問わず、例えば広島にいる人が日本全国のある特定のサービスについて常にバックアップできるような体制を持つことができるようになります。

資料 「営業シーン再構築」 出典:ライズ・コンサルティング・グループ
「営業シーン再構築」 出典:ライズ・コンサルティング・グループ

しかし人間は変化を嫌う、恐れる動物なので、不安を感じる人や順応できない人も出てきます。したがって、その部分のケアはとても重要になってきます。特にデジタル化が進んでくると、例えば会食などで仲良くなるという機会がなくなるので、疎外感を感じたり、不安になる方も増えてきます。そこをどうするかは非常に重要ですね。 
今は、営業職という分かりやすい例で説明しましたが、その他にも不動産や小売、医療など様々な分野でも様々な「再構築」は見られます。例えば、不動産の軸足がどのように変わるのかというと、これまでは住職近接が基本でしたが、それがテレワーク中心になってくると、住む場所=好きな場所になります。そうなると、まずはどのような建物を建てるのかというレベルで再構築が必要になっています。 

また、テレワークに相応しい住居レイアウトについては最近、話題になっていると思います。例えば、夫婦共働きで1LDKに住んでおり、夫婦2人のオンラインミーティングの時間が重なったとします。2人ともリビングにいるとお互いの声が入ってしまうので、リビングと寝室に分かれるしかありませんが、寝室ではカメラをオンにしにくいという問題などがあると思います。また、小さなお子さんがいた場合は、その泣き声が入ってしまうという問題も出てきます。これらを、レイアウトの工夫でどう改善できるか? 

さらに、住む場所を変えるとなった場合、その人にとってのコストパフォーマンスがいい場所を探すと思います。但し、職場のそばに住まなくてもよいとなると、検索が一気に難しくなります。そのあたりが改善されると、人の動きもダイナミックになってきます。例えばファミリー層で家賃を10万円支払って都内に住んでいる方が、都内を離れて同じ条件の月10万円で家を買おうとすると、石川県金沢市でも月10万円のローンで150平米の土地に100平米の建物がついた新築一戸建てが買えます。また近場では、横浜市の戸塚は同じくらいの値段で買えます。どんどんライフワークバランスを良くするための工夫ができます。このような再構築が至るところで出てくるというのが、コロナを見据えたときの戦略変化だと思います。

リモートワークで組織に求められる3つの人材タイプ

韮原:ありがとうございます。技術活用がコロナによって一気に進んだということですね。私も実は、住宅・不動産関連企業のデジタル化について、先ほどのお話と同じようなテーマでご相談をお受けしています。どのようにデータを活用していくのか、典型的なCRMをきちんと整えていくだけでも十分効果的です。顧客のデータポイントを発生元で押さえ、それを統合するという考え方です。住宅販売は、その後何年かするとレイアウト変更などのリフォーム需要が発生します。それを追いかけるだけでも大きなオポチュニティがあるはずだと考えられます。 
こういうことは本当にいろいろなところで起きていて、かつ、コロナで投資が止まると思いきやそんなことはなく、むしろ今だからこそやりたいという企業もあります。もともと多くの上場企業は十分なキャッシュを持っているので、大手であればこそ、先ほどの住宅・不動産のようなこれまでデジタル化とは縁遠かった業界にまで、変化が起きているという印象ですね。 

佐藤:リーマンショック後にも言われましたが、ピンチのときこそ投資というアクセルを踏みに行けるのか、反対に投資を止めたり経営を縮小するようなブレーキを踏むのかによって、景気が回復したときの伸び方が変わってきます。なので、今、アクセルを踏める企業というのはとても強いと思います。 

韮原:そうですね。今、こちらのセッションをご覧になっているのはプロのトレーナーの方やコンサルタントの方、人事担当の方、もしくは、それらに興味を持っている方だと思います。そういう方々が、どのようなところで仕事をしようか考えたときに、やはり元々、資金余力があり、投資しがいのあるテーマに取り組むのは当然のことと思います。 
そこに対して、いかにして必要な人材を新たに獲得する支援を行うか、さらに、採用した人を含めて、どのようにして社内のチームビルディングを進めるのか。あるいはコロナ禍のリモートワーク環境の中で、不安に感じている方へのケアをどうするかといった課題もあるかと思います。その点については、どのようにお考えでしょうか。 

佐藤:やはり人事に関わる方にとっても、大きなチャンスであり、腕の見せ所だと思っています。人という側面で言いますと、3つの人材に仕分ける必要があると思います。

1つ目はイノベーション人材です。これは、先ほどの再構築をきちんと構想し、実現していく人ですね。ポストコロナを見据えた新規事業を立ち上げたり、新しいアイデアを出してイノベーションを進めていく人です。
 
2つ目はオペレーション人材です。ここに関しては様々な言い方がありますが、大きく分けると2つあって、まずは既存事業を維持・成長させる人材。また、イノベーションというのも、どこかのタイミングで組織に定着させていく必要があります。それを担う人材も、オペレーション人材です。例えば、再構築がある程度終わった段階で日常業務に落としていくことなどですね。 

3つ目はメンテナンス人材です。人材に携わっている方はPM理論、人材をパフォーマンスとメンテナンスに分けて分類する理論をご承知かと思います。ここ10~20年でいうと、業績がいい会社は、どちらかというとパフォーマンス型の人材を重視してきた傾向にあります。しかし、現在のように大きく変化する、且つデジタル化により人と人との直接的なふれあいが減る中では、メンテナンス人材がまた脚光を浴びるのではないかと踏んでいます。メンテナンス人材は経験的に、“あの人は、人と人の間を取り持つのがうまい”、“あの人はやる気を出させてくれる人”と認識されており、直感的に、精度高くアセスできると思います。 

オペレーション人材とイノベーション人材に関しては、学術的にも全く違う素質が求められるという話がありますし、ここをどのようにして見極めていくのか。私が新規事業の会社をお手伝いしていても、どのような人間をリーダーに選ぶのかについて悩まれるケースが多いです。まさに、イノベーション人材やオペレーション人材の人材要件をつくり、その要件に合った方を探して雇い、育成していき、かつハイポテンシャルな人材が流出しないよう、リテンションを含めてモチベーション管理をしていくということは、これから重要になってくると思います。 

組織への従順性や対人能力が高くなくても、価値の高い人材が増えていく

韮原:10年ほど前に外資系のコンサルティングファームで、組織・人事部門の立ち上げを経験しました。当時の経営アジェンダは、デジタル化ではなくグローバル化で、グローバル競争に巻き込まれる中で、いかに新規事業を生み出すかというテーマでの組織と人材の課題に取り組んでいました。イノベーションの必要性が盛んに議論されたのも同時期のことではなかったかと思いますが、当時の我々の講演資料には、「これからはイノベーション人材とオペレーション人材だ」と書かれています。メンテナンス人材については、その当時、我々は気づきませんでしたが、佐藤さんのおっしゃる通りだと思います。

一過性のイノベーションではなく、常に経営アジェンダに沿ったイノベーティブな新規事業を生み出せるような人材だけでなく、デジタルテクノロジーを使って新たなオペレーションを作り出すイノベーション人材も必要ですよね。当時はグローバル化と新規事業創出の話をしていましたが、今はデジタル化の話をしている。結局は、普遍的にイノベーティブな人材が必要なのではないかと感じました。 

佐藤:おっしゃる通りで、普遍化しつつあるというのが正しい表現だと思います。事業にはライフサイクルがありますよね。ライフサイクルが終盤になってくると、新しく盛り立てるためにはリノベーションが必要です。もしそれが難しいのであれば、イノベーションで新しい事業を作らなければなりません。このライフサイクルというのは、ひと昔前は会社の寿命は30年という言い方をしていたので、30年に1回イノベーションを起こせば十分でした。ところがどんどんライフサイクルが富士山型やペンシル型といって短縮していく中で、イノベーションの頻度が高くなっていきました。頻度が高くなるということは、それだけ人が必要になるということです。 

まさに私もProfileXT®を使い、企業にイノベーション人材がどれくらい必要なのかを測ったことがありますが、イノベーション人材の資質にフィットしている方はだいたい1~2%しかおらず、その1~2%の人に依存してもよいのかという問題があります。またその1~2%の人も資質だけでは不十分で、スキルを付けていくような経験をさせて育成する必要があります。よって、まずは資質のある貴重な人材を見抜いて、きちんと経験をさせて育成をし、イノベーションできる人を増やしていかなければ、今後の経営環境の変化が激しくイノベーションが求められる環境下で、勝ち続けることは難しいと思います。 

韮原:そうですよね。社内の中から見出して登用することもそうですし、外部の人にも魅力を感じてもらい、その中から見抜いて会社に来てもらうということも重要ですね。 

佐藤:人材の流動化はこれからどんどんと進むと思います。流動的になると、現在のように1時間の面接による対話だけで、その人がイノベーション人材かどうかを見抜くのが難しくなってきます。従来はSPIのようなペーパーテストを行う会社も多くありましたが、資質面の見極めのためにアセスメントを導入する会社も増えてくると思います。 

韮原:最近でも、オンライン面接で候補者を見抜ききれないという声は上がっています。オンライン面接で採用したものの、緊急事態宣言が明けて実際に会ってみると、思っていた人と少し違ったという声を耳にしました。それをAIで何とかしようと言われても、専門家の私から見ても効果に疑問に感じます。何十年も改善し続けていて、何千万人も受けているというようなDiSC®やProfileXT®のようなアセスメントの知見は、十分に実証済みのものとしてもう一度掘り起こされてもいい技術だと思います。 

外部の採用をしていくという段階で、明らかに組織従順性が低い人というのは、社外から見ても採用しづらいですよね。しかしイノベーション人材として採用するときに、必ずしも組織のルールに従いにくいけれども、そういう人を敢えて採用していくというチャレンジも必要です。そのためにはアセスメントのような測定指標があり、そのスコアという理由があってはじめて、外の異分子的な人材や、社内のパフォームしづらいポジションにいる方も、光り輝いてくると思います。 

実際に、私が支援してきたデジタルトランスフォーメーションで成功を収めてきた方には、現業の仕事はかなりおろそかにしている方がいらっしゃいます。しかし一点突破のプロジェクトには熱を燃やして取り組んでいて、連続で社長賞をとっていたりするけれども、現業も含めた全体的な査定は必ずしも良くなかったりします。そのような本当に尖っている人が、2015年頃から本格化したAI活用や、その後のデジタルトランスフォーメーションを成功させた走りの人だったように思います。 

佐藤:現在も過去も、事業や企業は人の集合体です。ビジネスを行う中では「対人」という観点で、その能力が高い人が比較的価値も高いです。コミュニケーション能力と表現をされますが、乱暴な言い方をしますと、デジタル化が進むと人と接することなく良いソフトウェアが作れたり、ハードが設計できるようになります。 
ですから、経営者からすると、組織への従順性や対人能力が高くなくても、価値の高い人材が増えてきます。そのような人材をどのように見極めて、なおかつ組織に迎え入れていくのかが、今後は求められてくると思います。 

益々重要性を帯びる「戦略人事」の役割

韮原:かれこれ20年近く、人事がいかに企画的・戦略的に業務を行うかというテーマは存在していました。例えば、USJを再生された森岡毅さんなども戦略人事の重要性について語っていますし、ミスミでリーダーシップを執られた三枝匡さんも、経営者の仕事として「気骨の人事」という言葉を使っています。 
戦略人事はもともと重要でしたが、さらに脚光を浴びて重要になってきたと思います。戦略人事の役割というのは本日のテーマにもなっていますが、佐藤さんはどのようにお考えでしょうか。 

佐藤: 3つの人材が重要になってくるとお話ししましたが、戦略人事としてすべきことの中でも、マネジメントサイクルは基本的には変わらないと思います。経営陣が戦略を作り、それを実現させるためにはどのような組織が必要なのかを設計し、実装していく。

資料 「ポストコロナにおける組織・人事戦略」 出典:ライズ・コンサルティング・グループ
「ポストコロナにおける組織・人事戦略」 出典:ライズ・コンサルティング・グループ

しかし組織とは骨格でしかないので、正しく機能させられるか、その中にどのような人をいれるかが重要です。特に新しいミッションを持った組織であれば、そこで求められる人材要件を定義して、その要件に合った人材を社内外から見極めていき、採用や異動をさせて配置します。配置後も育成が必要で、優秀な方にはきちんと残っていただくためにも評価をします。このサイクルはおそらく変わらないと思います。 
戦略人事として重要なことがいくつかあります。順番に言いますと、戦略策定というのは、昔は年次サイクルで動いている会社が多かった印象があります。例えば、2月頃になると翌年度の戦略が見えてきて、それに伴って人事異動がされていくような会社です。但し、強い会社ほど大胆に戦略を変えていきます。そうすると、人事も年次サイクルではない運営をできるようになる必要があります。 

組織設計で言いますと、20年、30年前でもメンテナンスは非常に重要だったので、「あの人はパフォーマンスは標準だけれども、メンテナンス力が高いからあの部署にいてもらおう」ということがありましたが、最近はパフォーマンスが重視されてくる中で、メンテナンス人材がラインの長であるケースが少なくなっています。 
しかし今後、メンテナンス人材が重要になっていきますが、ライン長として配置すべきか、人事部門などに集中配置すべきか、配置の仕方を考えていく必要があります。
 
育成に関しては、イノベーション人材が再構築の際に必要なスキルを育成する場というのは、実はまだそこまで多くありません。なので、いかにそのような場でOJTをしていくのか。そのOJTの場が不十分だとしたら、どのようにして他の形でそのスキルや経験を磨いてもらうのか、ということが重要になってきます。 
例えば、どのようにディスラプトする姿を描くのかというディスラプトデザインや、パートナーを見つけて同じビジョンに向かって行動するという共創の事業開発があります。これは当然ながらパートナーとの利害関係がある中で、どのように調整しながら推進していくのかという巻き込み力や、ビジョンによるリーダーシップなどが必要です。 
また、新規事業はいかに早く安く上手く失敗を重ねながら、いかに学んで、いかに早く正解にたどり着くかが重要です。そのリーンスタートアップというものは、なかなか既存事業では身につかないところなので、このようなものをどうやってスキルとして体得頂くかを考える必要があります。 

このように、戦略人事には様々なものが求められます。その中で、経営的にインパクトが高いものを2つあげてみましょう。人事部門は、戦略に基づき組織を設計し、その組織を回すために最適な人材を配置する必要があります。一つ目の重要点は、戦略から人材までに往々にして生じる断絶を見つけ、うまく繋げていくことです。そこには、アセスが非常に有効です。 
もう1つの重要点は、マネジメントサイクルをいかに早く回していくかです。通常は、年次で予算や計画を立てて、育成や採用を行っていると思います。それを早く、細かくサイクルを回していくことが重要です。例えば、弊社でも新卒採用を、春と秋の年2サイクルに変えました。このように柔軟性と機敏性を高めていくことが重要だと思います。 

戦略の力を人と組織の力にロスなく変換する

韮原:デジタル変革に取り組むという中期戦略や事業戦略であったり、その戦略の実行段階において、組織が相変わらずそのままだったり、あるいはなんの権限もない準備室があるだけというようなケースは往々にしてあります。さらに、「全社的にやる」という社長の大号令はあるものの、実際に改革が進まない。そういった企業内の変革を促すような本質的な課題を解決するために必要な研修を実施している会社は、日本企業の中ではほとんどないと思いますが、佐藤さんはどうお考えでしょうか。 

佐藤:おっしゃる通り、上から下にストンと落としている会社は多くはありません。10年以上前から課題が顕在化していて、残念ながら今もその課題が残り続けている領域だと理解しています。 
では、何が阻害要因となっているかというと、一般的なキャリアパスだと思います。そもそも、人事部門の顧客は社内のフロント部門だと思いますが、そこを十二分に理解した人がきちんと腰を据えて人事を担当していることが重要です。しかし、多くの企業では、人事は専門職として職人的にずっと人事を務めあげる場合と、反対にローテーションをする中で人事も経験する2つのパターンがあります。これでは、専門職で上がってきた人は顧客の現場感が分かりませんし、ローテーションの人は腰掛けになって本腰が入りません。 

弊社のクライアントでも何社かいらっしゃいますが、本当にフロントの一線で部長や本部長を経験した人が人事部の本部長になり、現場のニーズを理解したうえでやっていくような人材交流が必要だと思います。人事の詳細な方法論に関しては部下のスペシャリストがやればいいのですが、どのようなニーズがあり、どのような優先順位でどこまでやるのかというところを、顧客部門を熟知した人事リーダーが担うというケースは、比較的うまくいきやすいです。 
もう1つの阻害要因は、誤解を恐れずに言いますと、人事には人を大切にする方が多いので、メンテナンス寄りの方が多いです。一方で経営者は数字にこだわる方が多くいらっしゃいます。要するにパフォーマンス型の方が多いのですね。このPとMでプロトコルが合わなかったり、確信犯で社長の言っていることとは違う運用をして、戦略と人事が断絶するケースがあると思います。 

韮原:やや脱線しますが、有名なベンチャー企業の社長さんが、「新入社員は朝誰よりも早く来て新聞を読んでいたら、上司から声がかかってチャンスがもらえる」と言ったことがあったそうです。その会社が、組織を大きくしていく段階で優秀とされる人事担当を外部から採用したら、社長が推奨しているため本来の就業時間外に会社が呼び出していることになると言われ、渋々撤回させられたそうです(笑)。バランスの難しい話ではありますが、人事は牽制役でもありながら一方で同時に、組織の向かうべき方向へ上手に導く牽引役にもなる必要があります。 

経営戦略から人材戦略としての育成までという部分をきちんと繋げて話せることができ、かつ牽制役でもあり牽引役でもある人事が、経営者や事業責任者との間に立てる存在として必要です。しかし、そんな理想的な人事だけではありませんから、コンサルティングなどの外部からの支援も必要とされているはずです。外部から組織や人材の強化を支援している方々には、まさに大きなチャンスなのではないかと思いました。 

佐藤:そうですね。私はチャンスとして捉えたいですし、捉えてほしいと思っています。経営者であれ、人事のヘッドであれ、人事のスタッフであれ、変化する局面では、新しいものを作り成果が出るように調整し、成果が出たものを定着させていくということが必要です。これができれば新しい環境に早く順応できて、会社全体が高いパフォーマンスを出せます。 
戦略という無機質なものをきちんと人に伝えて、人が動いて、成果を出して業績に反映させるためには、人事はとても重要だと思います。担い手というのは組織であり人です。この重要性は変わらない中、戦略はどんどんと変わっていきます。そこにどうやって柔軟に対応していきながら、きちんと戦略の力を人と組織の力にロスなく変換していき、そして成果に繋げていくというところは、腕の見せ所だと思います。

対談風景 【ポストコロナの組織・人材戦略を見通す】~戦略人事の新たな役割と経営戦略を組織・人材戦略に落とし込む方法~

環境変化に対応するための「 DiSC®」「ProfileXT® 」の可能性

韮原:オペレーション人材に適した資質について、どのようにお考えですか。 

佐藤:これは、いろいろな人がいろいろなことをおっしゃっていますが、例えば、実行型というところで、まず目標設定して分析をして、進捗管理できることです。または、利害を調整できることという人もいます。 
事業がぐんぐんと伸びるフェーズというのは、とにかく活動量を増やしていき売上を伸ばしていきます。しかし横ばいになったり減っているときというのは、限られた利益をいかに調整・配分していき、みんなの満足度を維持しながら極力成長させていくことが重要になってきます。 

韮原:一方でメンテナンス人材も重要になるというお話もあり、変化が激しい中で全体を維持できる存在が重要ということだったと思います。おそらく、そのような方々はDiSC®でいうとSタイプですよね。「様々な社員を辞めさせて来てしまったなかで、DiSC®を受けたあとで初めて、自分が疎んじてきた人々はSであり、オフィス全体のお母さんのような非常に貴重な人であったのに、結果として辞めさせてしまったことを非常に後悔している」と、あるベンチャー経営者の方が仰っていました。まさにメンテナンス人材の重要性を見抜けなかったという後悔かと思いますが、どのような方がメンテナンス人材として役割を果たすのでしょうか。 

佐藤:メンテナンス人材というのは、少なくとも、対人能力や洞察力が高い方であればほぼ確実に向いています。確かにお母さん的な人というのは重要ですね。パフォーマンス型は、売り上げやKPIなどの数字を重視します。一方でメンテナンス型は人の表情やムードを重視します。これを測ろうとするとコミュニケーションの量や、誰が密なコミュニケーションを取っていて、誰が疎になっているかと見るやり方もありまる。そういうものを見ていくと、コミュニケーションの中で誰が疎外されているかが定量的にも分かります。そういう点を重視するのがメンテナンス人材なので、自ずと求められる力もはっきりしてくると思います。 

先ほども言いましたが、デジタル化が進み、今年の新卒は基本的にテレワークで仕事をしているので、「入社した実感をどうしても持ちにくい」という声もあります。親から「社会人になって半年経ったがどうか」と聞かれても、「社会人になったかもしれないけれども、家でPCに向き合っているだけだから分からない」と答える人も多いようです。そのような不安に対して、きちんとケアしてあげられる人も重要です。 
私も先日、最近入社して、はじめてプロジェクトに配属された人たちと短い時間の会食をしましたが、参加者の方からは「やってよかった」と言われました。仕事以外での接点を欲しかった、とのことでした。やはり今はメンテナンスの重要性が上がっていると思うので、それができる人を採用することが急務だと思います。 

韮原:営業もZoomやTeamsでやろうという一方で、わざわざ会いに行く機会を織り込んでそこでしっかりと仕掛けることができれば、相当上手くいくはずですよね。デジタル化に移行しているけれども、揺り戻しも必ず起きるでしょうから、その振動をどうバランスさせるのか、制御工学のようにうまくやれればチャンスがあると感じますね。 
最後になりますが、総合的にDiSC®やProfileXT®などの活動余地を改めてうかがいたいのと、御覧になっている方々にポジティブなメッセージをお願いできればと思います。 

佐藤:イノベーション人材とオペレーション人材、またパフォーマンス人材とメンテナンス人材のパフォーマンスモデルを作っていくことができるので、今まで以上にProfileXT®の重要性は高くなると思います。 
例えば、営業や監査などの役割のパフォーマンスモデルを作っている方もいらっしゃるかもしれません。一方、事業のライフサイクルに沿って創業期に強い方、成長期に強い方、または衰退期に強い方等のパフォーマンスモデルを作っている会社はそれほど多くないので、そのようなところに活用すればいいと思います。 

DiSC®に関しては、今までと使い方は変わりませんが、チームでのリアルコミュニケーションが少なくなるなか、チームの輪を維持するためには、今まで以上に相性が重要になってくると思いますし、その相性を客観的に見て利用する情報としては、DiSC®の情報は強いと思います。メンテナンス人材がいたとしても、デジタルが強くなってくるとやはり人間関係は疎になるので、その疎な環境の中でも壊れないチームを組成するというのがDiSC®の使い方だと思います。 

【DiSC®】 心理学者ウィリアム・M・マーストン博士により提唱されたDiSC®理論をベースに、1970年代に開発された自己分析ツール。職場で人がどのように自分を認識しどのように行動するかを「D主導」「i感化」「S安定」「C慎重」の4つの行動特性で測定する。著作権はWiley社所有。 

【ProfileXT®】 人材が組織内の特定の職務にどれだけ効果的にフィットするかを測定するアセスメント。採用、選抜、育成、マネジメント、戦略的な人員配置に活用できる。著作権はWiley社所有。 

韮原:実際に我々のところでも、DiSC®に関するお問い合わせやお仕事が増えていますね。DiSC®は以前ビズリーチさんにも弊社のイベントに登壇して頂いていますが、やはり組織が急成長していく中で、チームのコミュニケーションをどう担保するのか、新しい人材についてより早く理解するためにはどうすればいいのかを考える機会に活用していらっしゃいます。また、営業の場面でも相手のDiSC®スタイルを推測して、コミュニケーションを使い分けるということをしています。 

ProfileXT®については、デジタルトランスフォーメーションを支援するための活用方法についてよく相談をお受けします。あるいはM&Aをした後の文化の融和や組織・人材力のシナジー創出の点でも、ProfileXT®を使うアプローチは増えています。ようやく人をアセスメントを使って数値で測るということが、ここ数年で本格的に受け入れられてきたと感じますね。 
私はかれこれ10年ぐらい人事におけるデータ活用を訴えているのですが、昔は「分かるけど、冷たくて嫌だな」と言われていたのが、随分と変わってきましたね。 

佐藤:ProfileXT®に関してはおっしゃる通り、今はとても信用できる有用な汎用ツールだと思います。しかしご覧になっている皆さんにも考えていただきたいのは、経営課題に対してピンポイントなソリューションにまだなりきれていない部分があるということです。例えばPMIにおいてProfileXT®で、どんな課題をどう解決できるかを明確にすれば、非常に使いやすくなると思います。同様に、いろいろな経営課題に沿ってProfileXT®をソリューション化していくということには、大きなチャンスがあると思います。

■佐藤さんの終了後コメント

非常に楽しかったです。本日は韮原さんのおかげもあり、戦略から人事まで一気通貫の話ができました。私の仕事ですと、戦略や人事、組織など部分的な話をする場合が多いので、コロナという大きなイベントの後にそれがどのように変化していくのかを一気通貫で話す機会をいただけたのは、自分の頭の整理にもなりました。また会場の方からの質問もするどくて、それに関しても自分の考えをお伝えすることができて、とても貴重な機会になりました。

2020年10月16日

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