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事業×組織×人材の戦略統合による新時代の企業成長論『HRD Next 2021-2022 PROGRAM3 Day1_Session2』HRDグループ・プロファイルズ株式会社 取締役 韮原 祐介

事業×組織×人材の戦略統合による新時代の企業成長論

講師:HRDグループ・プロファイルズ株式会社
取締役 韮原 祐介

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まだ出口の見えないパンデミック、不安定な地政学的状況、デジタル技術の進展によるディスラプター(破壊者)の脅威など、企業経営における不確実性が益々高まっています。こうした不確実な環境を企業が生き抜くためには、明確な戦略と刻々と変化する外部環境・内部環境に応じた流動性の高い組織と人材作りが必須となります。本セッションでは、まず経営戦略の50年史を振り返り、いま話題となる “両利き経営”や“パーパス経営”などといった経営思想のパラダイムの背景について解説することから始めます。その上で、不確実性の高い環境下で流動的な組織をいかに作るか、適応力の高い人材をいかに作ればよいのかについて解説します。

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講師:
HRDグループ・プロファイルズ株式会社
取締役
韮原 祐介

まず、韮原は基本となる考え方として、事業×組織×人材の各戦略が統合された経営戦略を提起。経営者が人事を、人事が経営を語る統合が企業成長のカギとなることを示し、セッションに入りました。

HRD Next 2021-2022 資料 基本となる考え方

経営戦略論の歴史と現在

“ポジショニング”“ケイパビリティ”“イノベーション”“両利き”各重視の論調

1960年代から経営戦略にも科学を持ち込むべきとの潮流が特に強まり、80年代にかけてアンドルーズの「SWOT分析」、BCGの「PPM」、マイケル・ポーターの「ファイブ・フォース」など、「儲かる市場で儲かる手法を行使すべき」という“ポジショニング”を重視する論調が主流を占めました。

80年代に入ると、マッキンゼーの「7S」、BCGの「タイムベース戦略」、ハマーの「BPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)」、ハメルの「コア・コンピタンス経営」といった企業の内部環境を重視する“ケイパビリティ”指向の論調が起こりました。

その後、どちらが正しいかとの論争が続き、90年代後半にはミンツバーグの「コンフィグレーション戦略」という中間的な論調が登場します。

またほぼ同時期に、クリステンセンの「イノベーションのジレンマ」、2005年代頃にはキム/モボルニュの「ブルーオーシャン戦略」といった“イノベーション”重視の論調が起こります。

2010年頃になると、マグレイスの「競争優位の終焉」、BCGの「戦略パレット」、最近になってオライリーの「両利きの経営」を重視する論調に流れてきています。

「戦略パレット」は、予測可能性および改変可能性の高低を組み合わせるなどした5通りのアプローチを状況に応じて適合させる戦略。「両利きの経営」は、“破壊的イノベーションを持つ新規事業”(知の探索)と“既存事業の持続的イノベーション”(知の深化)の双方を追求する戦略です。

HRD Next 2021-2022 資料 経営戦略論の変遷の背景

経営戦略論の変遷の背景

以上の経営戦略論の変遷には背景があります。ケイパビリティ派の登場の背景には、60年代後半からの内部環境を重視する日本企業の躍進があります。イノベーション派の登場の背景には、“盛者必衰”をもたらす破壊的技術の出現があります。両利き派登場の背景には、金融危機やGAFAの躍進が挙げられます。
「そして最近ではパンデミックが起こり、不確実性が極めて高い状況が今後の経営環境の特徴と言えます」と韮原は指摘します。

HRD Next 2021-2022 資料 経営戦略論の変遷の歴史

ここで韮原は、それぞれの経営戦略を実践している例として、USJの立て直しに成功した森岡毅氏のケースを取り上げました。“ポジショニング”としては、ハリウッド映画から総合エンタテインメントへのポジショニング変更、“ケイパビリティ”では逆向きジェットコースターや戦略人事強化、“イノベーション”としてはVRアトラクションや沖縄テーマパーク構想におけるブルーオーシャン戦略、“両利き”としてはハリーポッターへの大型投資や地磁気センサーを用いたO2Oマーケティングなど。加えて、数理・統計学を用いた需要予測を行うことによる不確実性の緩和施策を挙げています。

経営戦略の4ポイント

以上を踏まえて、韮原は経営戦略を策定する上で押さえるべき4つのポイントを指摘しました。

1)勝つための戦略的ポジショニングも、それを実行する組織・人材も、双方ともに重要であること
2)競争優位は持続しないため、新事業創出と既存事業の改善の両利きが重要であること
3)市場の不確実性が高いため、新事業創出に当たっては探索的に実験しながら試すことも考慮すべきであること(ある程度の失敗は許容する必要があること)
4)数学・統計学などを駆使しながら、定量データによる市場分析を綿密に行うことで、事業の成功確率を飛躍的に高めることができること

いま考慮すべき外部環境の変化

こうした経営戦略策定におけるポイントを踏まえた上で、実際にいま起きている外部環境の変化に目を向けてみましょう。今の外部環境の変化として、韮原は「破壊的新技術」「不安定な地政学」「強化される政府規制」の3点を挙げ、これらの変化を見極めながら経営の舵取りを行う重要性を指摘しました。

1) 破壊的新技術

●踊り場を迎えたAI基礎技術の深化

「現代のAIは限界に直面しています」と韮原。大量のデータがなければならないこと、そのために学習による計算コストが膨大なこと、それだけ学習しても想定外のケースの振る舞いが読み切れないこと(テスラのオートパイロット事故など)、判断結果の理由がほぼブラックボックスであることを理由に挙げています。

こうした課題に対応するため新たに提唱され始めている試みとして、韮原は“第4世代AI”を紹介しました。AIに知識を授けることで賢くなり診断ができるという言語・記号処理による探索ベースの第1世代(1960年代~)、機械に知識を教え込めば人工知能ができると考えられた、ルールベースの第2世代(1980年代~)という流れがあったところに、ニューラルネットワークやパターン処理による機械学習ベースの第3世代(2000年代後半~)が登場。この2つの流れを融合したものが第4世代で、現在のAIの限界を突破するアプローチとして、国内外で提唱されています。

HRD Next 2021-2022 資料 新たな人工知能技術の提唱

以上を踏まえてAIの長期的な技術トレンドに関する予想と経営者が考慮すべきこととして、韮原は次の3点を指摘しました。

・閃きや直感などを持った次世代AIのブレークスルーは20~30年ぐらい先ではないか
・それまでの間、第3世代AIの実装がパラダイムとして続く
・したがって、世界のどこかで自社のビジネスを脅かす破壊的な企業がすでに片鱗をのぞかせている可能性に注意していけばよい

●Web3とメタバース

「A Iだけでなく、インターネットも次世代に向かっています」と韮原。ホームページや検索など“掲載”がテーマの“Web1.0”、SNSや動画配信など“共有”がテーマの“Web2.0”に続いて、今起きているのはブロックチェーンや暗号通貨など“分散化”がテーマの“Web3”。この背景には、GAFAなどによるデータの独占が挙げられます。一方、AR/VRという技術を用いてメタバース市場が勃興する兆しがあります。

「これから要素技術をつくる第4世代AIより、既存技術をサービス化・エコノミー化する段階にあるWeb3やメタバースの方がより早く進展すると考えられます。こういう変化を押さえた上で、戦略や組織・人材について検討すべき」と韮原は言います。

HRD Next 2021-2022 資料 a16z V.S. イーロン・マスク、ジャック・ドーシー

2) 不安定な地政学

●台湾有事の可能性とロシアによるハイブリッド戦inウクライナ*

現在、中国が台湾へ進攻する可能性やロシアによるウクライナ進攻の可能性が高まり緊張が増している、と指摘します。これらの有事が起こるとサプライチェーンが大きく混乱するリスクが高まります。実際に起きてから対応するのでなく、起きた場合にどのような経営環境に見舞われるのか「シナリオプランニング」を行って備えるべき」と韮原は指摘します。
*本セッションはロシアによるウクライナ侵攻前に行われました。

3) 強化される政府規制

●カーボンニュートラル規制とWeb2ジャイアント企業への規制

この2年間は、コロナによる政府の規制で飲食業や観光業が大打撃を受けました。今後、2050年のカーボンニュートラルに向けての規制が自動車産業などへのリスクファクターとなったり、GAFA/BATHなどのテックジャイアントに対する規制や個人情報保護の規制の影響を受ける可能性が増したりすることになります。日本の政府機関別の規制数を見ると、公正取引員会や個人情報保護委員会に関するものは国土交通省や厚生労働省など既存の規制産業に比べて100分の1以下であることがその傍証です。

HRD Next 2021-2022 資料 国内の規制数

これまでの内容を踏まえ、「現在の経営環境の特徴は、不確実性の高さ、変化のスピードが極めて高いこと」と韮原はまとめました。

不確実性に対応するための組織戦略

では、そうした状況でどういった組織戦略を取ればいいのか。韮原は「流動性の高い組織が企業競争力の源泉になる」として、マイアミ大学ビジネススクール副学長のアルーン・シャーマ教授の指摘する“3つのR”を示しました。

  • Restructure(組織の再構成)
     事業部制・マトリクス制から“小規模チーム”に転換することで機動性を高める
  • Reskill(社員の再教育・継続教育)
     T字型スキルから“拡張T字型”への転換。特にイノベーションとデジタルスキルの獲得が重要
  • Rescale(リソースの再拡張)
     時間と予算リソースの再拡張と縮小の自在性
HRD Next 2021-2022 資料3Rによる組織の流動性強化

中でも“Reskill”はまだ日本では始まったばかりで、65%ほどの企業はまだ実施していません(IPA調査による)。

HRD Next 2021-2022 資料 Reskillは人材区政業界にとっては、大きなビジネス機会

さらに、従業員一人ひとりの“感情のあり方”への配慮が新たな経営思想のパラダイムとなり、「心理的安全性」を提唱するハーバード大学のエイミー・エドモンソン教授が2021年のThinkers50で1位となるなど、いま最も注目を集める経営思想となっています。

HRD Next 2021-2022 資料 経営思想家ランキング「Thinker 50」2021年

これは、組織内の対人関係において、懸念や疑問、意見を率直に発言することにリスクを感じない環境を指します。Google社内における調査においても、この「心理的安全性」が最もチームの成功において重要な因子であることが明らかになっています。
「当社は、『Everything DiSC® 』を用いて心理的安全性を高める方法論を今後展開する予定です」と韮原は述べました*。


*本ブログ投稿時点において、既に展開中です。ご興味の方はお問合せ下さい。

HRD Next 2021-2022 資料 心理的安全性とDiSCの融合

事業・組織戦略と統合された人材戦略

韮原は、これまでの不確実性の高い経営環境とそれに対応するための流動性の高い組織作りが求められる環境を踏まえ、今後の人材戦略の大方針として次の4点を指摘します

  • 事業戦略・組織戦略と統合された“流動的な人材戦略”の立案・実行
  • 人材マネジメントの“パーソナライズ化”と“マイクロフィードバック”
  • 人材マネジメントの確実性を上げるための“データ活用”
  • “経営層のリスキリング”をきっかけとする“学習する組織文化”の醸成


1)事業戦略・組織戦略と統合された“流動的な人材戦略”の立案・実行

「人事制度も外部環境の変化に合わせて流動的に適応させるべき」と韮原は指摘します。このチェックポイントとしては、そもそも最新の中期計画で示された事業戦略と統合・整合された人材戦略や人材ポートフォリオについての計画の立案、事業戦略に応じた研修制度やイノベーションを促しつつ、失敗を許容する評価制度の導入、組織の流動性や心理的安全性を高める施策の実行、戦略に従って必要となる人材にとって魅力的に映る制度や受け容れ体制の整備、人事部における積極的な人事制度改良への動機付けなどを挙げています。

2)人材マネジメントの“パーソナライズ化”と“マイクロフィードバック”

“Web2.0”の世界では、SNSに投稿すれば「いいね!」のフィードバックを即座にもらうことができ、LINEでメッセージを送ればすぐ返信が届きます。amazonなどでは「あなたへのおすすめ」が提案されます。こうした外の世界の常識に合わせて、社内の人事制度も変えていく必要があります。

「会社の外の世界でSNSに投稿すれば、瞬時に世界中からフィードバックがもらえるのに、社内の仕事の評価は1年に1度では、もう許容されません。タスクごと・タームごとにタイムリーに評価をもらえる“マイクロフィードバック”が必要です。また通販サイトやふるさと納税のサイトでも“あなたへのおすすめ”が提示されるのですから、本人の長期的志向に応じた“あなたへのおすすめキャリア”を会社が提示していく必要もあるでしょう。」と韮原は言います。そのためには、人材ごとの基礎情報や動機の源泉の可視化、ジョブ型制度と関連してポジションごとにハイパフォーマーの特性を可視化する、といった情報の整備が必須。「その中にDiSCやPXTのような心理的情報も必須」と韮原は付け加えます。

「そもそも会社が両利きでチャレンジしていないと社員も長く働いてくれないので、もちろん経営戦略論も重要」と韮原は指摘します。

 3)人材マネジメントの確実性を上げるための“データ活用”

3つ目のポイントは、データの活用がデジタル時代に適応した人材マネジメントへの進化を促す触媒になるということです。従来はエンゲージメントなどの組織サーベイが典型的。「今後は、社員個別のミクロなレベルでパフォーマンスを上げるための日・週単位のきめ細かいデータの取得と活用が重要になるでしょう」と韮原。そのためには、属性や評価、勤怠などに加え、心理特性や資質、コンピテンシー、ポテンシャルといった情報が必要となり、DiSCやPXT、CP360を活用することができます。

4)“経営層のリスキリング”をきっかけとする“学習する組織文化”の醸成

「一国の首相も大企業のトップもコロナ対応に右往左往し、ただの人であることが露呈しました。リモートワークも相まって、相対的にリーダーの威光が霞んだ2年間だったと思います」と韮原。必然的にリーダーも現代の外部環境に応じた学び直し(リスキリング)が必要で、危機対応リーダーシップやイノベーションとデジタルに関するスキル、心理的安全性をもたらすマネジメント力などをトップ自らが学び直す姿勢を示すことが求められます。トップのそうした姿勢が、組織全体の継続学習を促進させることにも繋がります。

そして、①ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)の定義・浸透、②事業戦略と実行プロセスの定義・発信、③人財特性を加味した実務支援方法の整備という施策を打ち出したことに触れ、ここでは③について説明されました。

最も重要なスキルとマインドセット

次に韮原は、今最も重要なスキルとマインドセットについて言及。「流動的で変化が激しい外部環境において、変化に適応できる学習能力と、それを可能にするマインドセットおよびセルフエフィカシー(自己効力感)が最重要」と指摘します。パンデミック危機が来ようが、Web3が来ようが、新たに必要な能力を瞬時に身につける能力。個々人がオンデマンドに新たなスキルを身につけられると思えるマインドセットやセルフエフィカシーがあれば怖いものはないということです。

最後に、HRDグループの今後の“両利き”へのチャレンジに触れて、本セッションを終えました。

2022年01月27日

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