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エンパワーメント再考:社員のポテンシャルをどう行動につなげるか

原文:Rethinking Empowerment: How to Turn Employee Potential into Action

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現代の職場における多くの要素と同様に、かつては定型的で予測可能だったものが、今ではより複雑で繊細なものになっています。働き方のモデルや優先事項、予算のあり方、そしてビジネスにおける政治的影響力などが変化し続ける中で、かつては明確だったことも、今ではより深い洞察と慎重な対応が求められるようになっています。

たとえば「エンパワーメント(empowerment=社員が自律的に行動し、影響力を発揮できる状態)」という言葉もその一例です。以前は、仕事において自律的に行動するためのスキルと許可を持っている状態を指していました。それは多くの場合、時間をかけた信頼関係の構築を通じて育まれ、企業社会の暗黙のルールに従って形成されてきたものです。

しかし私たちが学んできたように、この世界で唯一確かなものは「変化」そのものです。パンデミック以降、職場におけるエンパワーメントの捉え方は大きく様変わりしています。この変化をより深く理解するために、Wiley Workplace Intelligenceは1,500人を対象に調査を実施しました。職場でエンパワーメントを感じるとはどういうことなのか、組織がエンパワーメントを戦略的資産として活かすにはどうすればよいのか、そしてマネージャーがその実現のために活用できる意外なほどシンプルな手段──それが「明確さ(clarity)」であること──について明らかにしています。

エンパワーメントの鍵は「勤続年数」よりも「関係性の質」

今回の調査では、非常に示唆に富む結果が明らかになりました。回答者の77%が、現在の職場で自分は「エンパワーされている(empowered)」と感じているのです。この数字は、企業文化の価値観が変化していることを示しています。すなわち、勤続年数や従来型のキャリアの積み上げよりも、「信頼」「柔軟性」「コミュニケーション」「支援的なリーダーシップ」といった要素が重視されるようになっているのです。

特に注目すべきなのは、この回答者のうち58%が、現在の上司との関係が2年以内であるという点です。これは、信頼やエンパワーメントは長年の関係の中で徐々に築かれるという従来の考え方に一石を投じるものです。今では、成果を上げるために協働や一体感を重視する企業が増え、エンパワーメントの意味合いそのものが再定義されつつあります。

パンデミック初期に高まった「ワークライフバランス」への関心がやや後退し、職場文化が再び企業主導の優先事項に傾きつつある現在においても、一部の変化は確実に根付いています。たとえば、ハイブリッド型の働き方が進む中で、意図的かつ丁寧なコミュニケーションが不可欠となり、それによって信頼関係の構築が従来よりも速く進み、関係性がより強固になっている可能性もあるのです。

現在の役割において、自分はエンパワーされていると感じている人は77%。

リモートワークがエンパワーメントを後押しする

調査からは、興味深い傾向も明らかになりました。リモートワークをしている従業員は、オフィス勤務の従業員に比べて、より高いレベルで「エンパワーされている」と感じている割合が顕著に高かったのです(リモート勤務:54%、オフィス勤務:48%)。この差は、リモートワークにおける柔軟性と自律性──つまり、働く時間や場所、進め方を自分でコントロールできる環境──が、エンパワーメントの実感に大きく寄与していることを物語っています。

従業員が自らの働く環境やスケジュール、業務の進め方に主導権を持てると、自ら動き、積極的に意思決定し、組織から信頼されているという感覚が高まりやすくなります。

こうした結果は、リモートワークが単なるライフスタイルの選択肢にとどまらず、組織にとって戦略的なメリットになり得ることを明らかにしています。より自律的な働き方を可能にすることで、企業はエンパワーメントが自然と根付くカルチャーを育むことができます。これからの職場環境がさらに進化していく中で、リモートやハイブリッドといった柔軟な働き方を取り入れることは、エンゲージメントやパフォーマンスを高め、企業文化だけでなく、ビジネス成果にも好影響をもたらす鍵となるかもしれません。

見過ごされがちなギャップ:エンパワーされているのに、動けない「潜在的リーダー」の存在

多くの組織がエンパワーメントの推進に取り組むなかで、私たちの調査はある重大なギャップを浮き彫りにしました。それは、「エンパワーされている」と感じながらも、実際には行動に移せていない人が42%もいるという事実です。

私たちはこうした人々を、「潜在的リーダー(latent leaders)」と呼んでいます。彼らは、リードし、変化を起こし、イノベーションを推進する素地を持ちながらも、職場の片隅にとどまっているのです。このギャップは、「エンパワーメントの実感」だけでは不十分であることを示しています。どれほど自信があっても、適切な環境や後押しがなければ、一歩を踏み出すのは難しいのです。

真にエンパワーメントの価値を引き出すためには、単に自律性を促すだけでなく、その可能性を「動かす」ための意図的な戦略が求められます。具体的には、明確な期待値の共有、支援的なリーダーシップ、そして実質的に貢献できる機会の提供が必要です。エンパワーメントを機能させるには、人々が自ら動き、アイデアを共有し、自分の立ち位置からリーダーシップを発揮できるような「行動志向の文化」と仕組みが不可欠なのです。

実質的な権限を与えられた人は、自ら行動を起こす可能性が2.8倍高くなります。

「任されている」と感じられるかが決定打

エンパワーメントとは、単に「能力がある」と感じることではなく、「信頼されて任されている」と実感できることです。しかし実際に、許可を待たずに自ら行動できると感じている従業員は、わずか49%にとどまっています。

この数字は、重要な違いを浮き彫りにしています。すなわち、エンパワーメントは単なる「業務の割り振り」にとどまると機能せず、「意思決定の権限」が伴ってはじめて本来の効果を発揮するということです。もし従業員に責任だけが与えられ、肝心な判断は許されないのであれば、当事者意識や主体性は停滞してしまいます。

たとえば、リーダーが「部下の専門性や洞察を信頼している」と言いつつ、実際には決定を覆したり、過度に細かく指示したりしている場合──言葉と行動が一致しないことで、信頼やエンパワーメントの感覚は簡単に損なわれてしまうのです。

エンパワーメントに最も必要なものは「明確さ」

職場でエンパワーメントを感じるうえで、最も重視されているのは「明確さ」だということが、今回の調査から明らかになりました。実に約半数(48%)の従業員が、「明確さ」をエンパワーメントの最重要要素として挙げています。この結果は、行動を阻む最大の障壁が「権限の有無」ではなく、「不確実さ」そのものであることを示しています。いかに能力があり、やる気にあふれる人材であっても、期待されていることや目標、意思決定の範囲が曖昧であれば、率先して動くことはためらわれてしまいます。

エンパワーメントは、前提となる「共有された理解」があってはじめて機能します。組織が明確な方向性を示し、役割を定義し、目標を丁寧に伝えることで、従業員は自信を持って主体的に行動できるようになります。あいまいさを取り除き、「何のために、どこへ向かって行動するのか」を明確にすることが、潜在的な力を真のパフォーマンスへと変えていく鍵なのです。

エンパワーメントを促進する3つの鍵

1.明確な方向性を示す

2.役割と責任を明確にする

3.目標を効果的に伝える

エンパワーメントは、単なる「感覚」ではありません。目的と結びつくことで、イノベーション・エンゲージメント・成長を生み出す「原動力」となります。あなたの組織の可能性を最大限に引き出すには、エンパワーメントを「行動」に変える仕組みを整えることが必要です。

原文:Rethinking Empowerment: How to Turn Employee Potential into Action
執筆:Janelle Beck, Senior Copy Editor & Tracey Carney EdD, Research Manager
出典:WILEY Workplace Intelligence|Everything DiSC®(2025年7月25日公開)

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2025年07月28日

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