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Leadership in Chaos
〜”こころ”と”そしき”の交差点 〜
第2回「自己と他の境界線はあるのか?」

HRD株式会社 代表取締役 韮原 祐介

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混沌の時代において、リーダーシップとは何かを問い直す。
「個」と「組織」のあいだに揺れる“こころ”を手がかりに、私たちの在り方を静かに見つめていく連載です。
本連載は、HRD株式会社代表取締役・韮原祐介が自身の経験と思索をもとに綴っています。

第2回「自己と他の境界線はあるのか?」

前回、私たちはある裁判の話をもとに、「切断された脚は、自分か?」という問いを考え始めました。

唾や髪の毛、吸い込む空気や食べたリンゴ。もともと「自分の一部だったもの」が「そうではなくなる瞬間」。逆に、もとは自分でなかったものが「自分の一部になっていく過程」。
そんな現象を通して、「自分とは何か?」という問いに触れました。

今回はそこから一歩踏み込み、「自分の境界線」はどこにあるのか?について、私なりの考えを共有したいと思います。

「意志が通じるか」は、自分の実感に影響する

まず、「身体」という観点から「自分」について考えてみましょう。

頭、胴、手、脚──。このうちの脚が切断されたとき、それはまだ「自分」と言えるのでしょうか?
あるいは、抜けた髪の毛や吐いた唾は、もとは身体の一部だったにもかかわらず、それを「自分」だと感じ続けるでしょうか?

おそらく、多くの人が「もはや自分ではない」と感じるはずです。

興味深いのは、「自分の意志とのつながり」が、この実感に強く関わっているという点です。

たとえば、脳梗塞を患った人が、動かなくなった自分の手を「自分のものではないように感じる」ことがあるそうです。身体とはつながっていても、自由に動かせないことで、自己との一体感が揺らぐのです。

逆に、自動運転車のように「意志に従って動いてくれるもの」があったとしても、それが身体の一部でない限り、私たちはそれを「自分」とは感じません。

つまり、「身体的につながっていること」と「意志が通じること」。この二つがそろっているときに、私たちは「これは自分だ」と感じやすいようなのです。

身体の外にある「自分になりうるもの」

では、空気やリンゴのように「自分の外にあったもの」が、自分の中に取り込まれていく過程はどうでしょうか?

吸い込んだ酸素は肺を通じて血流に入り、私たちの活動を支えます。食べたリンゴは消化され、栄養となり、エネルギーとして体の一部になります。

摂取前には明らかに「自分ではなかったもの」が、体内に取り込まれることで「自分の一部」に変化していく。

そう考えると、「自分とは、自分の中に取り込んだものも含む存在」だと言えるかもしれません。

さらに視野を広げてみましょう。

太陽の光を浴びることで、私たちは体内でビタミンDを合成します。つまり、太陽光もまた、私たちの体と関わり、働きかけている存在です。太陽そのものが「自分」とは言い難くても、潜在的には自分の一部となりうる存在だと言えるのです。

自分とは、宇宙とつながる存在なのか?

こうして考えを広げていくと、思わぬところにたどり着きます。

太陽も、地球も、地球にある食べ物も、私たち自身も、すべては約137億年前のビッグバンから生まれたもの。

星々が一生を終えて爆発し、その残骸が集まることで、私たちの身体を構成する元素ができあがった。

私たちは宇宙と無関係ではありません。むしろ、ビッグバンから始まった宇宙の歴史の一部を生きている。そう捉えても、決して不自然ではないでしょう。

言い換えれば、自分自身と全宇宙は本来的に一体の存在かもしれず、自己と他を分かつ境界線など、もともと存在しないのかもしれません。

とはいえ、私たちは日常生活において、137億光年先の宇宙に思いを馳せながら暮らしているわけではありません。

意識の中心にあるのは、もっと身近なこと――自分自身、家族、友人、職場、地域、せいぜい国のことくらいでしょう。

「自分の範囲」は、自分で決める

では改めて、「自分」とは何なのでしょうか?
言い換えれば、「自分の範囲」をどこまでと考えるのか?

それを決めるのは、やはり「自分自身」なのではないかと、私は思います。

「自分の身体の範囲だけ」と考えれば、その外にあるものには自然と無関心になります。

しかし、「空気も、食べ物も、光も、宇宙も、自分とつながる存在である」と捉えたとき、私たちの世界観、人生観は大きく変わるかもしれません。

どこまでを“自分”とみなすか――。

その想像力の広がりが、私たちの人格をつくり、社会のあり方さえも形づくっていくように、私には思えるのです。


次回は、「自分とは何か」について、歴史上の哲学者たちがどのような思索を展開してきたのかを見ていきたいと思います。
ソクラテスやカントといった思想家には、少なくとも触れることになるでしょう。
次回に向けて、あらためて彼らの思想を整理し、私なりにまとめてみたいと思います。

(つづく)


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2025年06月02日

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